第16章 知識を得る者
長時間飛行できるかを確かめるために図書館を後にしたホークスと言はタクシーを使って暫く移動し、草原に足を着けた。今日の天気は雲ひとつない晴天。空を飛ぶには絶好の天候であった。
「ここなら障害物もないし景色もいい。空を飛ぶには絶好のスポットだ。じゃあモノは試しだ早速飛んでみようか」
『はい!【ショートカット】[翼]』
言は個性を使って翼を出し、ゆっくりとその翼を羽ばたかせて宙に浮く。
「いい感じだね。次はもっと高度をあげようか」
ホークスの指示を受けながら言は慎重に草原一面を見渡せる高さにまで上昇した。距離が近くなった太陽の眩しさに一度瞼を閉じる。体全体に触れる風は心地よく、下を見下ろすと風によって植物達が同じ方向へと左右に動いていてまるで草原が生きているようだった。
『綺麗…』
そんな風と植物が生み出した美しい作品に目を取られていると突然強い風が吹き荒れる。
『わっ』
「言ちゃん!」
バランスを崩し風に流されると思った瞬間、咄嗟に差し出されたホークスの手。言は反射的に差し出された彼の手を握った。そして風に流された2人は手を繋いだ状態で数回、空中でぐるりと回転した。
「風の影響をすっかり忘れてたよ…言ちゃん大丈夫だった?怖い思いさせちゃったよね」
体勢を建て直したホークスは言を自身の両腕の中にしっかりと横で抱きとめていた。内心では心臓がバクバクと脈打っているが驚きよりも言の身の安全や怪我の有無、心の心配を優先。しかし言はそんなホークスの言葉に返事を返さず顔を俯かせたままだった。
「言ちゃん?」
『…ふふ、あはは!』
相当怖い思いをさせてしまったのだろうかと自責の念に駆られたが、そんな思いは杞憂だったかのように顔を上げた言は出会った中で1番の笑顔を見せていた。
『ホークスさん!今の凄かったですね!グルンって!あはは!』
ホークスの腕の中で幼い子供のように無邪気にはしゃぐ言。
『空って自由ですね!』
向日葵のような笑顔で放った言の言葉はホークスの心に大きく響いた。
(本当にこの子はどこまで俺の心を…────)