第16章 知識を得る者
『え?天使?』
真顔のホークスが口にした言葉を言は復唱して首を傾けた。そんな彼女の可愛らしい仕草に恐ろしい程の真面目な顔付きだったホークスの表情が崩れる。完全に自分の世界に入り込んでいるようだった。
───こんな…こんな事が自分の人生で起こりうるなんて。彼女を一目見た瞬間、身体中に電撃が走った。元々色鮮やだった世界はより彩を見せ、耳から入ってくる綺麗で澄んだ声はまるで幸福を運んでくるようだった。恋なんて生まれてこの方した事がなかったし、仕事の関係上この先も恋をする事はないだろうと考えていた。しかしその考えが易々と覆されてしまった。1人の少女によって。まさか自分が…高校生の女の子に一目惚れをするなんて。
顔を赤に染めて己の中に芽生えた感情に身を焼かれそうになっているホークス。彼は今にも焼かれてしまいそうなその身を誤魔化すように左手は頭に、右手は口元に当てていた。そして彼の後ろに立っていたルーシーは厄介事が出来たと言わんばかりの表情でホークスに冷めた目線を送っていた。
「ルーシーさん……俺…何でも言う事聞きます」
後ろを振り返り真顔でルーシーの手を握ってそう発言したホークス。流石世間から速すぎる男と呼ばれるだけある。切り替えの速さが尋常ではない。先程までの恋を自覚し、その感情に打ちひしがれていた情けない姿は何処にもない。そしてルーシーは今までに見せたことの無い顔でホークスの手を払った。
「やっぱりアンタを連れてきたのは間違いだったかもしれないね」
「ルーシーさん!俺絶対嫌ですよ!!九州には帰りません!!」
ルーシーの足元で、まるで子供のように駄々を捏ねるホークス。ルーシーはそんなホークスを無視して言に話を振った。
「ホークスには今日アンタの事を見てもらおうと思っていたんだ。私が今日用事があって1日留守にする予定だったからね」
『本当ですか!ホークスさんに教えて頂けるなんて感無量です』
ホークスに指導を任せるのは色々危ないと考え、他の助っ人に変更しようとしたのだがキラキラと目を輝かせる言の表情に押し負けたルーシーはため息をついて変更は無理だと悟った。