第16章 知識を得る者
「どうしたんすかお嬢?」
『多分私は貴方の言うお嬢と言う方ではないです。人違いだと思いますので私はここで失礼しま…』
言が男から離れるためにそう言った瞬間。頭上にあった蛍光灯がチカチカと点滅しながら点灯し先程まで薄暗かった路地に光がさす。
「あれ、さっきは暗くてよく見えなかったんすけどよく見りゃお嬢、髪の色とか目の色変えたんすね。それどうやったんですか?まぁ、”あそこ”から逃げたんだそりゃ変装もするか」
そう言って言の話を耳にもいれずブツブツと独りでに喋りだす男。男の顔は先程から変わらず笑みを浮かべている。それはあまりにも薄気味悪い笑みで言はそんな男の表情に背筋を凍らせ後込む。そして男に背を向けて走り去ろうとするが
「あ、ダメっすよお嬢」
『やめっ…!!んんっ……!!』
言が逃げようとした瞬間に男は瞬きをする間もなく言の体を路地裏の壁に勢いよく押さえつけ、口を塞ぐ。
「危ない危ない。お嬢の口を塞がなきゃ個性を使われるとこだった」
(なんで私の個性をっ…!!)
「いや~それにしてもお嬢。ホントいい女に育ちましたよね…今なら俺、全然イケますよ?」
『ッッ!!』
太ももを少し汗ばんだ手で撫でる感触。男は息を荒くしながら言の体を舐めまわすように見つめていた。個性を使う術を塞がれた彼女が大人の男性に力で勝つことなど出来る訳もなく、ただその場で踠き目に涙を貯めた。
(いやっ…気持ち悪い…誰か!)
「ハァ…これは粛清対象だな…」
静かに、冷たく重たい声が何処からか聞こえてくる。言はその声の正体を掴もうと視線を動かした瞬間、涙で霞んだ視界は真っ暗に。そして身動きが取れなかったはずの体が自由になった。