第16章 知識を得る者
『ここ…どこ…?』
完全に日が沈み、街灯が暗くなった街を照らす。そんな中、言は一人見知らぬ場所に迷い込み完全に迷子となっていた。しかも言が今居る場所は街外れにあるとても怪しげな雰囲気を醸し出している裏路地。言はキョロキョロと周りを見渡すがそんな裏路地に人がいる訳もなく少し体を縮こませながら恐る恐る足を進めていく。
『そうだ、携帯…!』
言は思い出したように鞄から携帯電話を取り出して緑谷と連絡を取ろうとする。
その時──────────
「お嬢…?」
黒いスーツに身を包んだ若い男性が言を見て何度か目を擦ったり瞬きを繰り返したりする。そして男は嬉しそうに笑みを浮かべてこちらに向かってズカズカと靴音を鳴らしながら歩いてくる。
『えっと…どちら様でしょうか?』
言は突然自分の目の前に現れた男に困惑しながらも丁寧な言葉遣いで対応した。
「忘れたんすか!俺っすよ!昔お嬢の世話係をしてた!」
『そ、そうだったかしら』
言は頭の中で八百万家に仕えていた者にこの様な男がいたか、と記憶を探るが自分が知る限りではこの男とあった記憶は無い。ましてや男は自分の世話係をしていたと言うらしい。
『小さい時の使用人でしょうか…?』
もし記憶にないのなら自分がとても小さい時。例えば2~5歳程の時の使用人だったのかもしれないと思いそう口にする言。
「小さい?いやいや俺が世話してた時はお嬢は小6でしたよ!」
『え…』
「それにしてもこんな所でお嬢に会えるなんて!いやー、ほんとうに俺ついてますわ!これなら”あの人”に”殺されず”に済みますもん!」
(…殺っ───?!)
ニコニコと笑う男から当たり前の様に出てくる言葉。確実にこの男に着いて行ってはいけない。言の本能が体にそう言い聞かせて反射的に男から距離を取る。