第15章 職場体験開始
『何これ…』
足早に進んでいくグラントリノの背を追い建物の中に入る言。そんな彼女は目の前の光景に目を輝かせ一瞬、呼吸をするのを忘れた。
『これはすごい…』
言目の前には壁一面が本棚となり、少しの隙間も無く本が詰め込まれていた。 見たところ特に洋書の数がずば抜けて多い。本棚に並べられた背表紙をよく見ると洋書マニアなら喉から手が出るほどに欲しがる本もチラホラと…。
「ここは紹介してえ奴が経営している図書館さ」
『この本の量を個人でですか…』
言はグラントリノの言葉に驚愕した。彼女の家はとても裕福で、そんな家柄と言うこともあって他の人よりも多くの種類の本や一般の家庭では手に入らないような希少な本にも目を通してきた。そして本の管理の大変さも重々理解している。そんな彼女が驚き、目を輝かせてこの光景に見とれる程なのだから相当凄いのだろう。
「まぁ、本人曰く洋書に関しては国会図書館に勝っているらしいな」
『国会図書館に…!あれ、でもこの本は読んだことがあるかな…あっコレも…』
言は目の前にある本の背表紙を見てそう呟く。子供のように胸を弾ませながら本を見つめる彼女の姿を見てグラントリノは嬉しそうに口角を上げた。
「…やはりここに連れて来て正解だな」
『え…?』
「おい!!!ババア!!」
そして彼は図書館の中にも関わらず大声で叫ぶ。
「…うるさいね、図書館だよ静かにおし」
そんなグラントリノの声に反応したのか不機嫌そうに返事をする年老いた女性の声。声がした方向に目を向けると少しキツめの顔をした年配の女性がカウンターの椅子に座っていた。
「久しぶりだなババア!」
「あんたにババアとは言われたかないね、グラントリノ」
彼女は溜め息を吐きながら読んでいた本にしおりをはさみ、ゆっくりと机の上に置いた。言はそんな彼女におずおずと声をかけた。
『…司書の方ですか』
「そうだよ、借りる時はあたしに言っておくれ。…にしても、見ない顔だねあんた」
『はい、八百万言と申します。今は職場体験でここに来ています』
言は自己紹介をして丁寧に頭を下げる。
「なるほどね」