第13章 綺麗なアノコ
「お姉ちゃんさっきは風船取ってくれてありがとう!」
「本当にありがとうございます」
天真爛漫な笑顔を向けてお礼を言う少女とその母親。どうやら言は先程の大きな荷物を持ったお婆さんを助けていただけではなく、その前に少女の困り事も解決してあげていたようだ。
『いえいえ、風船いなくならなくて良かったね』
言は少女と目線を合わせるように膝を曲げて、微笑みながら少女の頭を撫でた。頭を撫でられた少女は花を咲かせるように笑い、母親と共に去って行った。
「さっきのお婆さんだけじゃなくてあの子も助けてあげてたのか」
『偶然困っているのを見かけたから』
言は感心する切島の言葉に平然とした顔でそう答えた。
「あ、んで執拗いようだけど言は何でここに?」
『…まぁ、1人反省会と社会見学的な』
言は手にしていた帽子をかぶり直しながらそう答える。切島と上鳴は意味ありげな彼女の返答に首を傾げた。けれど深く掘り下げたりはしなかった。「これ以上は聞かないで」そう言う風に感じたから。
雄英体育祭で自らの過ちに気がつき心を入れ替えた言は体育祭が終わったあとから決めていた事があった。それは外の世界を見る事。言の世界はあまりにも狭い。母親と父親、百や執事にメイド。その位しか言の世界にはいなかった。高校に入って少しは増えたがそれでもほんの僅か。だからその世界を広める為に今日は街中に出て、様々な場所を回っていたのだ。
「まぁとりあえずこんな所じゃなんだしどっか行くか?」
「そうだな」
「あっさっきの!!」
歩き出した途端、また声をかけられる。今度は30代位のサラリーマンの男性だった。どうやらその男性は少女の前に助けてあげた人物のようで、彼の話を聞くと道に迷っていたところを言に助けてもらったらしい。
言は今日様々な場所を回っていると言ったが、何故か行く先行く先で困っている人がいて、そんな人を見かけては助けていたのだ。その結果か止めどなく、と言う程ではないが10~20分に1回は先程の少女の様にお礼を言われた。
「いや!!流石に多いわ!!」
暫くしてどこかしら歩く度に声をかけられる事に流石に我慢出来なくなった上鳴がツッコミを入れた。