第13章 綺麗なアノコ
言は分からなかった。今の自分が怒られている状況が。社交界に行けば食事に誘われる事など日常のようなもので、言自身そのような経験は手で数える程しかなかったが、周りの人達をよく観察していたので見知った光景ではあった。そして今回、プライベートではあるが食事に誘われた時、男性が2人いたのでどちらかは従者の方なのだと考えてしまった。また言は従者をつけていなかったが、連絡さえすればすぐに来てくれるような優秀な従者なので彼らについて行っても大丈夫だと思ってしまったのだ。
言は基本的に社交界や学校以外では外に出ない。八百万家がなるべく言を外界に触れさせないようにしていたから。だから分からなかったのだ。世の男が社交界にいるような知的で洗練された者だけでないということを。
「あんなどこの誰かも知らねぇ男について行こうとすんな!!」
『ご…ごめんなさい…』
言は容易に男性について行こうとしたのがいけない事だったのだと彼の言動から察して自分の箱入りさを悔やんだ。あからさまにショックを受けた顔を浮かべる言を見て、切島はやってしまったと焦りを浮かべた。
「あっ、あー…悪ぃ…俺も怒りすぎた…ごめんな?」
『大丈夫、元はと言えば私が悪いから!』
そう言って言は落ち込んでいた顔をパッと切り替えて首を横に振り、笑顔を見せた。
「俺こそ感情的になりすぎた…つうかクロアは何でこんなとこにいるんだ?」
『それは…』
「おーい!!切島!置いてくなよ!!!」
言がここにいる理由を話そうとした瞬間、切島の名前を呼びながらこちらにへと駆け足で近づいてくる上鳴。彼は切島達に追いつくと肩で息をしながら呼吸を整えた。
「おまっ、足はえーよ」
「わりぃ!」
『ふふ、今日は2人でお出かけ?仲良いんだね』
「まぁな!そう言う言は何でここに?」
先程切島が言に説いた質問を上鳴もまた同じく繰り返す。
『それは、』
「あっ!!さっきのお姉ちゃん!」
再度ここにいる理由を話そうとすると今度は無邪気な声に遮られてしまった。声がした方向に視線を向けると、言を指差しながら右手は母親と手を繋ぎ、左手には赤い風船を握り締めた幼い少女がいた。