第12章 雄英体育祭決着
試合が終わった後、言は保健室に居た。リカバリーガールの治療を受けて体の傷は治り、体操服も新しいのを支給してもらったので身なりはいつも通りの綺麗な姿に戻っていた。
「緑谷の坊やにも言ったけどあんたも何だかんだ無茶するねぇ」
『あはは…すいません』
言はリカバリーガールにカラカラと笑いを向けながらもその目は笑っていなかった。
「はい、後は戻っても大丈夫だよ。だが傷は治しても水分不足までは治せないからね!脱水症にならないように直ぐに水分補給しないさい!」
『はい、ありがとうございました』
リカバリーガールにお礼を添えて言は扉をガラリと開けて保健室を後にした。そしてしばらくスタジアムの通路を歩き、人が来なさそうな場所を見つけると言はそこにしゃがみこみ手に持っている水が入ったペットボトルをベコベコと音をたてながら強く握りしめた。
(勝てなかった…)
今にも中から水が弾け飛びそうなぐらいに形を変えるペットボトル。
『皆…あんなに応援してくれたのに…応えられなかった。百ちゃんやお茶子ちゃんに見ててなんて言っておいてこのザマだよ…』
誰もいないスタジアムの通路に小さく響く独り言。彼女はそう呟きハハッと笑いながら俯いた。そして暫くして彼女の目には光が宿り澄んだ眼差しで先を見据えるように顔を上げた。
(悔しい…悔しいけどいつまでもこんな所でウジウジしてる訳には行かない。前を向かなきゃ、前に進まなきゃ…!)
言はその場に勢いよく立ち上がる。しかしその勢いで手からペットボトルを床に落としてしまう。言がそのペットボトルを拾おうと膝を曲げた時だった
(──あれ?)
言の視界はぐにゃりと歪みその場に音をたてて倒れてしまう。倒れると同時にズキズキと頭痛が襲い喉の乾きを感じる。脱水症だ。そしてそんな言が倒れる通路に靴音を鳴らしながら誰かが近づいてくる。
『…だ、れ……?』
徐々に近づいてくる人の姿。しかし言の視界はボヤけているので近づいて来ている人物が誰なのかは分からない。そして言はそう呟いて意識を手放した。