第10章 双子対決
(私は百ちゃんにこんな顔をさせたかったの…?)
違う、私は彼女にこんな顔をして欲しくてわざと負けていたんじゃない…!でもこの場で理由を言うわけにはいかない。この体育祭は全国放送で全国の人が見ている中でこの事実を公にするわけにはいかないのだ。その瞬間、私の頭にとある考えが浮かぶ。
(そっか…なら聞こえなくすればいいんだ)
『[壁]』
私はステージの真ん中に立つ私と百ちゃんを閉じ込めるように壁で四方八方隙間なく塞ぐ。壁で囲まれた空間の中は真っ暗で、壁の外からは微かにマイク先生の声が聞こえてくる。
「なんだ!?八百万言と八百万百の2人がいきなり壁に囲まれて見えなくなっちまったぞ!」
私はそんなマイク先生の実況を後目に壁に包まれた空間で膝を抱えるように座り自分の顔を膝に当てるように体を縮める。
「壁?これで私と貴女を囲んでどうするのですか」
『さっきどうして私が百ちゃんにわざと負けているかって聞いてきたよね』
「…ええ」
『それはね私と百ちゃんが本当の姉妹じゃないから…血が繋がっていないからだよ』
私は虚ろな目をして膝を抱えて地面に座ったまま百ちゃんにぽつりぽつりと話し始める。壁で囲まれた空間は真っ暗なのでお互いの表情は伺うことが出来ないが、百ちゃんからは明らかに驚いた声が返ってくる。
「な?!いつ、それを…」
『…やっぱり知ってたんだね。中学生に上がりたての頃だよ、偶然お父様の書斎で本を探していたら養子届が出てきたの』
まるでその存在を隠すように机の中の奥底に封をして入れられていた養子届。その養子届を見た瞬間、酷く嫌な予感はした。でもそんな嫌な予感が外れていれば良いと思って私はその養子届に目を通してしまったのだ。いや、ほんの少し…好奇心もあったかもしれない。
『そこには私の名前がしっかりと書かれていたよ。私はお父様とお母様の本当の娘じゃない!それだけじゃなくて素性も分からない拾い子だったんでしょ!』
乾いた笑いを零しながら膝にうずめていた顔を上げ、体を揺らしながらその場に立ち上がる。
『そんな拾い子の私が勝って良い訳が無い!ましてや八百万家の長女が拾い子の私に負けたなんて知れたらどんな事を言われるか分からないじゃん!』
「言…」