第9章 それぞれの覚悟
理不尽に見舞われたその後、私はポツンと1人取り残された会場の隅をトボトボと歩いていた。すると人の気配が全く感じられなかった筈の会場の隅に大きな声が谺響(こだま)する。
「うわっ!待ってー!」
慌てた声を放ち、上級生と思われる弾性は宙に浮いた何かを追いかけていた。目を凝らすと宙に浮いた何かは学校指定の体操服で、勢いよく吹く風と一緒に流されてくる。そして徐々に視界に近づいてくる体操服。私は避ける間もなく、その体操服は私の顔をふわりと包むように覆い被さった。
「わわっ!そこのキミごめんね!」
流されてきた体操服の持ち主であろう男性はあたふたとしながら私の顔にかかる体操服を優しく剥がしてくれる。
『いえ、大丈夫です』
私の視界にはデフォルメの効いた童顔に、大柄で鍛え抜かれた肉体という中々にインパクトのある男性が頭をペコペコと下げながら立っていた。
「俺はヒーロー科3年B組の通形ミリオ!君は?」
『えっと、ヒーロー科1年A組の八百万言です』
この人が雄英高校ヒーロー科の3年生。ヒーロー科の上級生は初めてお目にかかる…彼の第一印象は人当たりの良い気さくな人。でも体操服を風に持っていかれるところを考えると少し抜けている所もあるのかもしれない。
「そうか言ちゃん!さっきは俺の体操服を助けてくれてありがとうね!」
”体操服を助ける”…何だかユニークな表現をする人だなと思っていると通形先輩は顎に手を当てて何かを思い出したように口を開く。
「それにしても1年A組と言うとあれか!USJ事件の!」
『そう、ですね…』
私はまたUSJ事件のことか…と思いながらも通形先輩に愛想笑いを向ける。
「あ!ごめん…あまり触れられたくないよね君たちからしたら怖い思いをした事件だ…」
そんな私の様子を察したのか通形先輩は申し訳なさそうな表情を浮かべて直ぐに私に頭を下げた。彼も悪気があって言った訳ではないようだ。