第11章 この日や天晴れて、千里に雲の立ち居もなく
陽露華は2人のやり取りを見て、妙な感じがした。
銀邇はここに居たくなさそうだった。
公任はここに残りたそうだった。
でも、銀邇の今の状態が川の事故につながる事は、流石に陽露華でもわかる。
しかし公任も1人にしてよかったのか、と疑問が残る。
別荘の件、瑞雲の件で公任は心労が溜まっている印象がある。
村で公任が寝泊まりした家の人が言うには、寝付きが悪く、夜中によく散歩に出ていたらしい。帰ってきて寝ても、魘されていたそうだ。
「あの、銀邇さん」
陽露華は銀邇を見て、何も言えなかった。
今の銀邇の背中には、誰の言葉も拒否する威圧感があった。彼はただそこに立っているだけなのに、誰も寄せ付けない気配がある。
陽露華はそっとその場を離れた。
(とりあえず、焚き火をしないと)
焚き火に使えそうな枝を拾い始めて暫く、陽露華はふと雑草の花に目を止めた。
小さな、名も分からぬ白い花が3つ咲いている。
しかしその3つは離れた場所に咲いていた。
1つは太い木の根の側。
1つは湿った枯葉の上。
1つは太い枯れ枝の下敷きになっている。
陽露華は太い枯れ枝を脇に除け、下敷きにされた花に触れる。茎が折れているが、雑草なら自分の力で持ち直せるほどである。
白い花が頂点となって結ぶ三角形は、遠過ぎず近過ぎず、微妙な距離。あと1歩、互いに歩み寄れば手を取り合えるだろう。
陽露華はその場にしゃがみこみ、集めた枝を側に置く。
いつから3人の関係は崩れ始めたのか。
いや、初めからだったかもしれない。
川で助けてもらったあの時から、全部始まっていたというのか。
公任と銀邇の旅の目的は、黄金の草原を探すことだ。でも、最近はそれが建前のように陽露華には思える。
公任は黄金の草原以外の何かを探している。
銀邇は何かに囚われている。
じゃあ自分は?
陽露華は何故、この2人を信用し、ついて来ているのか。
明確な答えは無いが、ただ1つ言えることは。
導かれている。
何かに導かれている。
手がかりが何も無いこの旅で、自分たちは何かを探している、導かれている。
それは黄金の草原ではない、でもそれが「黄金の草原」たらしめるもの。