第11章 この日や天晴れて、千里に雲の立ち居もなく
村を出て、林を進む一行。
村が林の斜面の眼下に見える辺りで、歌い終わった公任が口を開いた。
「陽露華ちゃん、今夜は野宿する気?」
公任の責めるでも非難するでもない問いかけに、陽露華は頷いた。
「すみません。先を急がなければならないのに、こんな事で1日を無駄にするのは良くないと承知の上ですが、どうしてもやりたいんです」
公任はどこか嬉しそうに笑った。
「陽露華ちゃんのやりたいようにやればいいよ。今日はゆっくり良い寝床を探そう」
「……! はい!」
「銀ちゃんも異論はないよね? ——銀ちゃん?」
公任が訝しんで銀邇を呼ぶが返事がない。
銀邇は公任と陽露華のすぐ後ろをついてきているが、心ここに在らずという具合で、ぼんやりとした足取りである。
「銀ちゃん、大丈夫?」
「……! ああ」
公任が銀邇の肩を揺すると、やっと我に返った。
「何か考え事?」
「いや、なんでもない……」
公任が尋ねると銀邇は首を横に振った。
陽露華は眉を顰めた。彼女にとっては心配する気持ちから現れた無意識の行動だったが、銀邇は何事か疑われている気になった。
「本当に、なんでもないんだ」
「あ、はい……」
銀邇の気迫に、陽露華は思わずそう返事していた。
さらに斜面を登ったところで、ちょうど開けた場所に出た。最近誰かが木を伐採したのか、周囲に並ぶ切り株は断面がまだ新しい。
ここなら「火遊び」しても火事になる心配はない。
身を隠すための障害物がないため野宿には向かないが、その近くの木の影に天幕を張ることにした。
この天幕は先の村でもらったもの。大きな幕の内に仕切りを立てて、公任と銀邇、陽露華とで分ける。
次は昼餉と夕餉の準備だ。
ここに来る途中に小川を見つけていて、そこに魚がいることは確認済みだ。
「銀ちゃんは陽露華ちゃんとお留守番しててね」
「は?」
魚を獲りに行こうとしていた銀邇は、肩透かしを喰らったような顔をした。
それを見た公任はやれやれと肩をすくませる。
「集中力が散漫な状態で、魚が獲れるとは思えないけどねえ」
公任の言葉に、銀邇の反論しようと一瞬開かれた口からは何も出なかった。
公任はゆっくり斜面を下って行く。
銀邇は黙って見送った。