第11章 この日や天晴れて、千里に雲の立ち居もなく
天地が逆さまになった。
陽露華が我に返った時、眼前には見覚えのある顔。
「お久しぶりですね。お嬢さん」
Uだ。
陽露華が何か言う前にUの手が口を塞ぐ。
「しー……。ご心配なく。私はただ、貴女に言いたいことがあるのです」
仰向けの自分に馬乗りになって口を塞ぐ人の、何を信用すれば良いのか。
陽露華はUの隙を窺おうとして、すぐに無駄だと悟る。
隙がまるでない。寧ろ、少しでも行動を起こそうとすれば、塞いでいる手で顎を外されそうだ。
陽露華は観念したことを、全身を脱力させて示す。
Uは満足そうに口角を上げると、話し始めた。
「私は貴女たちをずっと見てきました。雑木林に逃げたことも、宿場町で火傷の治療をしたことも、母親の暗殺も、この村のことも。私は全部知っています」
陽露華は黙って続きを聞く。
「貴女はまるで成長していない。神はどうして貴女のような小娘を選んだのでしょう? この旅を続ければ、いずれ真実を知り絶望する。お父さんはそれを望んでいるのでしょうか?」
Uは陽露華にかけた手に力を込める。
「否、君は初めから間違えていた。君はあの旅籠で、おとなしく私に殺されているべきだった。そうすればこんなにも辛い思いをしなくて良かったのだ」
陽露華はUから目を逸らせなかった。声を聞かざるを得なかった。
それでも陽露華は正気を保てた。
この旅で陽露華は目立った成長はしていない。自分でもそう思う。
それでも自分の知らないところで、何かが成長していることは、少なくとも信じていた。
それが今、目の前に現れた。
Uの背後で黄色い閃光が瞬き、腹に響く轟音があたりに響き渡る。
陽露華の放った花火が林の中を照らし出し、音が木々を揺らして空気を伝って行った。
Uは陽露華をその場に残し高く跳躍して、近くの木をするすると登って姿を消した。