第10章 住職はやうつつになって
「覚悟っ!!」
銀邇は声を荒げ、素早い踏み込みで刀を引き抜き、瑞雲目掛けて斬り掛かった。
瑞雲の口が微かに動くと、すんでのところで刀は停止する。
瑞雲の首を狙っていたはずの刃は、陽露華の喉元にあった。
陽露華は瑞雲を守る様に両腕を広げて立っている。
彼女は着物は着ておらず、腰布も無くし、前掛け1枚だった。大勢の男の前で晒して良い、女子の姿ではない。
陽露華の頬は高揚し、目に涙を湛え、両足は震え、広げる両腕にも力が入っていない。股の間からは尿とは違う液を垂らしている。
瑞雲はゆっくりと立ち上がり、陽露華の首を背後から右手で掴み、銀邇の刀から離れる。
銀邇は刀を構え直した。
「あーあ、どうして言ってしまったのかねえ、あの娘は。子持ちだから虐めるのは面白くないからねえ。息子を人質に脅したのも無意味だったのかあ。反抗できない様に毎日教え込んだのにい、学習能力の無い娘だあ」
瑞雲はそう言いながら、ゆっくりと陽露華の腹に左手を這わせる。陽露華は顔を歪ませてはいるものの、抵抗しない。
その手はそのまま前掛けの下に入った。
「それで? 公任さんと銀邇さんと言いましたねえ。お2人はこの娘を取り返しに来た、で合ってます?」
公任と銀邇に緊張が走った。瑞雲を睨みつける目が更に鋭くなる。
「返すのには惜しい娘ですねえ。女子であるのに、随分楽しめました。これでも私は衆道(しゅうどう:少年愛)の僧なんですがねえ」
「このっ……!」
一歩踏み出しそうになった銀邇を、公任は素早く制す。
公任は銀邇に睨まれながら、交渉を持ちかける。
「ここにいる子供を全員、解放しろ。その子と草庵に居た女の子達も同様にだ」
瑞雲は目を細めた。