第10章 住職はやうつつになって
公任と銀邇は少女に言われた小道を走っていた。
2人の足の速さなら、然程時間もかからずに小屋に辿り着く。
その小屋は古い家畜小屋を、無理矢理家屋にした様な建物で、かつて広く空けられていたであろう壁は、木の板で塞がり、出入り口の引き戸は、丈夫な厚いものであるが、立て付けが悪い。
公任と銀邇は二手に分かれて引き戸のすぐ横に立ち、聞き耳を立てる。
中からは、年若い子供の呻き声とも喘ぎ声とも聞こえる声が聞こえてきた。
公任は銀邇に目配せし、腰の刀に手をかけた。
2人は同時に引き戸を蹴破る。
大きな音を立てて倒れた引き戸の中は、異様な光景だった。
そこに転がるのは、身包みを剥がされた少年ら。皆一様に虚ろな瞳で、焦点の合わない者もいる。
彼らの着物や帯は散乱し、湿ったものもある。
その臭いもまた、平生とは異なり、この木々生い茂る場所では嗅ぐことのない、鼻をつく異臭であった。
倒れた戸のすぐ側には、着物を着崩している少年が、まだ5つにも満たない男児を守る様に抱え込んでいる。
その抱える両手は恐怖で震え、男児を余計怖がらせている。
小屋の奥には此方に骨の浮き出る背を向けて座る、男が1人。
その影から覗くのは、2人分の手足。
「……瑞雲……なのか?」
公任はやっとの事で声を出した。
男の影から覗く、見慣れた桃色の着物から目が離せない。
男は徐ろに振り向き、口元を歪ませる。その顔にべったりとついた液が、更に不気味に見せる。
瑞雲だ。
紛れもなく、自身は修行僧だと名乗った、瑞雲である。