第8章 遥かなる苔の細道をふみわけて、心ぼそく住み成したる庵あり
公任は銀邇を訝しみながら、さっき陽露華と決定した事項を説明する。
「この先にあるっていう村を、俺か銀ちゃんで確認する。陽露華ちゃんはさっきの修行僧の草庵で待っててもらおうと思うんだけど、どう?」
銀邇に異論はなかった。
瑞雲の事自体も怪しいが、言っていた村についても十分怪しい。
修行の身とは言え、僧侶の端くれ。滅多なことはしない。
3人は来た道を引き返して、瑞雲と会った雑な小道に踏み入る。
緩やかな斜面が続き、然程時間はかからずに草庵を発見した。
周囲の雑草や木は伐採され、低い柵が庵を囲う。
その玄関口では子供が複数人居た。
見るからに、貧しい農民の子らだろう。仕事の手伝いもせずに、こんなところで何をしているのか。
公任、銀邇、陽露華は近くの木の陰に隠れて、様子を伺う。
子供達は3人に気づいた様子も無く、草庵の戸を叩いた。
出迎えたのは瑞雲。
子供達は元気に挨拶をして、中に招き入れられた。
ぱたんと戸が閉まると、中が少し騒がしくなって、暫くすると元の静けさを取り戻す。
「じゃあ、ちょっと声かけてみるか」
公任はすくっと立ち上がり、茂みから出る。
銀邇と陽露華もそれに続く。
「ごめんくださーい」
さほど間もおかずに引き開けられた戸の奥には瑞雲がいた。
「あれ、皆さん。どうかされましたか?」
「図々しいのは承知で、2つほど頼みがあるんですが……」
「ええ。私で良ければ、なんでも仰ってください」
公任は口をもぐもぐさせながら、村について尋ねたが、瑞雲は首を横に振った。
「先ほど申し上げた通り、私の耳には正確な村の情報は届いておりません。推測はいくらでも立ちますが、それは真実ではありません。お役に立てず、申し訳ありません」
「直接村に行ったことは無いんですか?」
瑞雲の言葉に驚いた公任はそう聞き返していた。瑞雲は肯定する。
「はい。なぜか私が村に近付くと、通りがかりの方に石を投げられるんです。酷い時は排泄物も。私はあの村ができる前から、ここで修行しているのですが、どうやらそのせいで良く無い噂が立っているようでして」
「良くない噂……って、どんなことですか?」
「それは私にもわかりません。村に近付けないので、詳しく聞けないのです」