第8章 遥かなる苔の細道をふみわけて、心ぼそく住み成したる庵あり
公任も銀邇も陽露華も、すっかり同情していた。
この時点で瑞雲が嘘をついている可能性も、無きにしも非ず。しかしながら、瑞雲の語り口、言葉を選んでいる様子から、その可能性は低い。
公任は予定を少し変更した。
「瑞雲さん。2つ目の頼みです。この子……陽露華ちゃんを少しの間、預かってくれませんか」
「それは何故でしょう?」
「俺と銀ちゃんで村を調べてきます」
公任は銀邇と目を合わせた。銀邇の目に異論の色はない。
驚いたのは瑞雲だった。
「どうしてですか?」
「他人事だと思えないからです」
答えたのは陽露華だった。実の家族に迫害を受けていたから、陽露華はその痛みを知っている。いくら修行僧とはいえ人間。消せる障害があるなら、消すべきだ。
「そこまで言うなら、止めませんが……呉々もお気をつけ下さい」
「はい、ありがとうございます」
瑞雲は深く一礼する。
公任と銀邇は村を目指して歩いて行った。
見送りを終えた陽露華が瑞雲を振り返ると、彼は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「えっ、あのっ、ええっ!!?」
「……すみません、なんでもありません」
「そう……ですか?」
「ええ……さあ、中へどうぞ。彼らの帰りを待ちましょう」
陽露華は瑞雲に促されるがまま、草庵に足を踏み入れ、通された部屋の襖を開けて、目を見開いた。