第7章 いま一度めぐりあわせて賜び給へ
「公任さん、どうしてあの様な事を…?」
「んー、そうだなあ……強いて言うなら、悔しかったから」
陽露華は首を傾げた。
公任は優しい目で館を見上げる。
「銀ちゃんに勝って俺に負けたことが、どれくらい凄いかを理解してなかったし、周りの人に散々な目に遭って、自分達のことを過小評価しちゃってる」
陽露華は公任の最初の言葉の理屈がよく分からなかったが、梅花達が強いのは紛れもない事実だ。
「それにさ、『具体的な任務を得た忍者は強い』よ」
公任ははにかんだ笑顔を陽露華に向けた。
「受け売り」
公任はまた館を見上げる。
陽露華も館を見上げた。
「お待たせー」
右頬に立派な紅葉(松永の平手打ちの痕)をつけた公任が蔵から出た。服装は旅でいつも着てる動きやすい着物。
「何が『お待たせー』ですか! 純粋無垢な少女の前で裸になる阿呆がおりますかこのど変態!!」
松永はまだ公任に1発入れないと気が済まないのか、竹井に羽交い締めにされても暴れている。しかし柔軟な松永は竹井から逃れると、公任の左頬に新しい紅葉を打ち込む。
裏庭の蔵の前に集まっているのは旅立つ準備を終えた6人(公任、銀邇、陽露華、松永、竹井、梅花)と、
「………」
3人の忍者が戻って来て間もなく目覚めた暁夫。そして、
「おい竹井。なぜ紅子様を連れて来たかそろそろ言え!」
「ひいっ!」
寝間着に羽織りを着て髪を下ろした紅子がいた。
「松永、責めないで。私が無理言ってお願いしたから」
昼間と雰囲気がすっかり違う。
紅子が銀邇を見ると、銀邇は背を向けた。
「暁夫様、百合子様にこれを」
梅花は暁夫に1通の封筒を渡した。
「百合子様には今夜に起こったこと、私達のことを知る義務があります。何も言わずにお渡しください」
「……わかった」
暁夫はジャケットの内ポケットに封筒を入れる。
梅花は竹井と松永に目配せをすると、頷き合った。
「私達はこれで失礼します。……陽露華様、どうかお気を付けて」
「梅花さんも、御元気で」
梅花は陽露華は言葉を交わすと、竹井と松永を従えて夜の山へ消えた。