第7章 いま一度めぐりあわせて賜び給へ
「故に、気づけなかったのです。綺緋様が道治様をいじめる理由に」
「まさか、綺緋様が『失望者』で親父さんが『踏まず人』……?」
公任の回答に、梅花は肯定した。
「でも当時の私達はそれに気づけず、道治様が陽露華様を連れて家を離れた翌朝に気付いたんです。道治様が婿養子として佐倉家に来てから1週間後に、綺緋様が道治様へのいじめを開始したと百合子様から聞いております。道治様が引っ越しの際に持ってきた物の中で唯一、道治様の趣味を示唆する物が『黄金の草原』でした。綺緋様は道治様の事を最初からよく思っておらず、明らかに異質な『本』で弱みを握ろうと思ったのでしょう。勝手に持ち出し、僅か2日で読了し、発狂しました」
陽露華は驚いた。
楊花がまだ禿になる以前、たびたび旅籠(はたご)を訪れては父に嫌がらせをし、陽露華の本の部屋に何度も火を付けようとしていた、あの綺緋の行動の理由に、極度の本嫌いなだけでなく『黄金の草原』も関わっていたとは。
「私達が来たときには、綺緋様が道治様へのいじめは既に始まっておりました。それもあって、『本』も見つけられず、当事者を炙り出す前に『踏まず人』を逃してしまいました。道治様が『本』と陽露華様を連れて居なくなってからの綺緋様は、まるで別人でした。自己中心的で身勝手な性格は変わってませんが、道治様の悪口を喚き散らす代わりに与太を飛ばして大笑いするようになりました」
それでも充分迷惑な話だが、『本』が無くなるだけでそんなに人は変わるものだろうか。
「正直、今日皆さんがいらっしゃった事には、本当に驚きました。道治様がお亡くなりになられたという知らせも、生きた心地がしませんでした。私達は綺緋様が『失望者』として生涯を終えるまでは『手綱人』としての任務は遂行せねばなりません。今回、公任さんと銀邇さんを引き離し、陽露華様を殺す計画を即興で組み立て、実行しましたが、陽露華様が『事後』であったとは……」
梅花はここで一呼吸置いて、更に続ける。