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黄金の草原

第7章 いま一度めぐりあわせて賜び給へ




「くっそ、酷い目にあった」
「銀ちゃんお得意の体を張った囮作戦は、今回失敗だったね。却って陽露華ちゃんを危険に晒しちゃった」
「まだ関節痺れてる……血管切るか」
「やめなさい。そして人の話を聞きなさい」


陽露華は皮が捲れた両の掌を、梅花に治療してもらっていた。


「これで大丈夫です」
「ありがとうございます」


竹井は松永と暁夫を介抱していた。松永には濡れた手拭いで蹴られた顳顬を冷やし、暁夫には解毒剤を飲ませる。


「あ、竹井くー……」
「ひいぃいっ!」
「銀ちゃんの分の解毒剤を……」
「どどどどうぞお納めくださいぃっ!」


竹井はすっかり公任に怯えている。


「お前、何したんだ」
「ちょっと睨んだだけだよ?」
「はぁー……」


銀邇は頭を抱えた。公任の一言で全てを察したらしい。

館の窓からは、まだ楽しげな談笑の声が聞こえて来る。
夜風が吹き付け、陽露華が身震いすると、梅花は羽織を脱いで着せた。


「私がこれからお話しする事は、他言無用でお願いします。他の誰かに聞かれるのはとても危険なので、ここでしか話せません」


梅花は申し訳なさそうに、そう前置きする。
陽露華は承諾し、公任と銀邇も頷いた。
梅花は静かに話し始める。


「私と松永と竹井は、ここから更に離れた山奥にある、忍者の里の出身です。忍者はもう、今では殆ど見なくなりましたが、私達は細々と任務をこなし、生計を立てていました。しかし、裏の人間の動きが少しずつ、おかしくなっていったんです。あの『黄金の草原』が出回り始めた時でした」


竹井も静かに梅花の声に耳を傾けた。


「その頃から任務の内容が『失望者』の手助けをするという内容が増え始め、私達は望まずして『手綱人』にされました。私が13歳の頃、佐倉家にある『黄金の草原』の奪取の任務を、松永と竹井の3人で受けて、召使いの見習いとして働き始めました。『失望者』が既に佐倉家に居て、同じ家に『踏まず人』が居て『本』を隠し持っている事までは分かっていましたが、肝心の当事者の絞り込みが出来なかった。その時は既に綺緋様と道治様はご結婚なされていて、いじめも始まっておりました」


陽露華は目を伏せた。その話は嫌というほど聞いてきた。


「私達は召使いとしても忍者としても未熟者でした」



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