第1章 思ひせく胸のほむらはつれなくて涙をわかすものにざりける
橋を渡って、神社を目指す。
目的の神社は橋からかなり遠く、既に太陽は1番高い空にあった。
(神社の、隣)
葵から聞いていた特徴の平家を発見する。
陽露華は躊躇無く扉を叩いて声を掛けると、酒臭い草臥れた中年の男が出てきた。コイツが柳田だろう。
「日向屋からの届け物です」
柳田は、紙袋を見て陽露華を見て、紙袋を見て陽露華を見ると、口の端を持ち上げ目を少し細めた、気味の悪い笑みを浮かべた。
陽露華は今すぐ踵を返して逃げ出したい衝動に駆られたが、紙袋を受け取ってくれないし、駄賃も貰ってないので走り出せなかった。
柳田は気味の悪い笑みを直さず、舐め回す様に陽露華を見ている。
そしてやっと口を開いたかと思えば、出てきたのはこんな言葉。
「ふん、前の娘よりはマシか」
どう言う意味で? 誰と比較して?
陽露華が聞こうとしたら、柳田に腕を引っ張られて、体勢を崩す。そのまま柳田の上に倒れ伏してしまった。
陽露華が危機を感じ取った時には、既に遅かった。
着崩れた着物の裾から、陽露華の白い太腿を汚い手が這い上ってきた。襟からも同じ汚い手が滑り込み、この年ではまあまあな胸を鷲掴む。
「ーーっ! ーーーっ!!」
声にならない悲鳴と共に無我夢中で暴れる。
柳田の上で寝返りをうって拘束を解くと、玄関先で落とした風呂敷包みを拾いながら無我夢中で走り出した。川に向かって走る。
遠くから男の声が聞こえる。大方、さっきの酒飲みだ。
陽露華は川沿いに出て、橋に向かって走っていると、前から歩いて来た2人の若い男の片方と勢い良くぶつかって、足を滑らせて土手を転がり落ちる。
高く伸びた雑草を掴んで、川に落ちなくて済んだが、下駄の鼻緒が切れた。
「んっぎぃっ!!」
陽露華は立ち上がろうとしたら、右足首に激痛が走る。捻挫したか。
「君! 大丈夫?!」
土手を1人の若い男が滑り降りて来て、陽露華に手を差し出す。
陽露華が手を取るのを一瞬躊躇した、刹那、