第4章 人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほいける
「陽露華様。嘘も方便と言いますが、綺緋様以外なら騙せなかったでしょうね」
「やはりそう思いますか」
梅花と陽露華は和やかな雰囲気で会話に入る。
公任と銀邇は花街を出て以来、初めて陽露華の笑顔を見た。
梅花は、今日は綺緋の母・百合子の誕生日である事、その誕生日会は今日の夕方から明け方まで催され、明日明後日も賑やかに過ごすことを伝えた。
今、綺緋が嬉々として公任と銀邇の部屋の準備に人手を回してることも。
帰らせる気はないらしい。
梅花は権力に逆らえるほどの精神力は持ち合わせていない為、諦めてもらいたいと言う。
諒解せざるを得なかった。
公任が陽露華はどこの部屋に泊まるのか尋ねると、梅花は苦しそうな顔になった。
陽露華は1畳ほどの隙間さえあれば大丈夫だと、梅花に言い聞かせる。
梅花は頷きながらも、しゃくり上げてしまった。
陽露華は梅花の肩を抱いて、優しく宥める。
その様子は、自分の情けなさに涙を流す母を、娘が宥めるようにも見えた。親子のような絆で結ばれている証拠だろう。
男2人は顔を見合わせた。お互い疲れた顔をしている。
梅花が落ち着いてきた頃に、ドタドタと騒々しい足音が複数聞こえてきた。
梅花は弾かれたように長椅子(ソファ)から立ち上がる。顔は使用人の顔に戻っていた。身を翻して、応接室の扉の脇に控えた。時を同じくして、扉が盛大な音を立てて開け放たれる。
現れたのは、はいからな衣装の少女が5人。陽露華とそんなに年幅もいかないだろう。皆頬を赤らめて興奮した様子だ。
「綺緋おば様がおっしゃていた素敵な殿方は此方に?!」
ただの野次馬だ。
年頃の好奇心、もしくは綺緋の言葉に踊らされて来たのだろう。