第2章 世の中にさらぬ別れのなくもがな千代もと嘆く人の子のため
示唆する何か。
陽露華は思い出そうとしても、父と葵の無残な姿しか思い出せない。
「陽露華ちゃん」
公任は目を細めた。
「それから、これも話さないといけないんだ。俺と銀ちゃんが読んだ『黄金の草原』」
公任はあらすじを話し始めた。
「俺が読んだのはね、1人の男が黄金の草原を探す話だったけど、最後に、恋人を失った同じ年くらいの男と旅をするようになった」
公任は銀邇を一瞥し、話すよう促した。銀邇は不承不承と話す。
「男女の旅人で2人は恋仲にあったが、道中女は川で溺死。……事故だった。男は後追い自殺を図るも、通りすがりの独り身の男に止められる。しばらく2人で旅をし、立ち寄った街で行き倒れた17になる少女を仲間にする」
陽露華は気づいてしまうだろう。
公任と銀邇がこうして、あらすじを話した理由に。
3つの『本』の物語の続きが、ここから始まろうとしていることに。
「とりあえず、どこ行く?」
公任は緊張感のない声で銀邇に聞く。
銀邇は少し考えて、陽露華を見た。
「お前、他に家族はいるのか。もしくは親戚。もしいるなら、親父さんのこと伝えねぇと」
陽露華は雷に打たれたような衝撃を受けた。
家族・親戚……陽露華が最も避けたい人々である。
彼らなんぞ、この世の悪の象徴である。
陽露華の顔に影が落ちる。恐怖とも憎悪とも取れる、その表情と雰囲気に、公任と銀邇は思わず硬直した。
「あー……陽露華ちゃん、愚問だっ……」
「いますよ。複数人」
公任の言葉を遮って、陽露華は光の無い瞳のまま答える。
「東にある山の別荘に住んでいます。お爺様と数人の召使いと共に」
「そう、なんだ……」
何ものにも言い難い、重苦しい沈黙が流れた。