第2章 世の中にさらぬ別れのなくもがな千代もと嘆く人の子のため
「まだ話は終わってないので、あしからず」
落ち着いた銀邇と陽露華に、公任は座るよう促す。
2人が座ると、公任は陽露華に尋ねた。
「陽露華ちゃんは、『黄金の草原』て知ってる?」
陽露華は首を横に振りかけて、止まった。
「もしかして、ススキのような小麦のようなイネのような、何とも区別しがたい細い植物が同封されていた本、ですか?」
「察しがいいね! 大正解!!」
公任は嬉しそうに笑ったが、すぐに真面目な顔になる。
「どんな内容だった?」
陽露華は3年前の記憶を引っ張り出す。
「確か……2人の親子が黄金の草原を求めて旅をして、道中に立ち寄った神社で惨殺されて、その犯人もまた黄金の草原を求めて旅をしていた人でした。でも、子は生き残って、通りすがりの旅人に助けられた所で終わりました」
「……そっか」
公任は少し考えて、更に聞く。
「その親子の詳細は覚えてる?」
陽露華は、はっきりと思い出してきていた。
「父と娘で、父は30代半ば、娘は15でした。惨殺した犯人は20代後半の男です。娘を助けた旅人は2人で、どちらも20代前半の男でした」
公任は意味ありげに微笑み、銀邇は心底驚いた。
「その本自体については、知ってる?」
公任の問いかけに、陽露華は首を横に振った。
「あれはな、人間を狂わせる、極めて危険な『本』なんだよ」
公任は説明を始めた。