第2章 世の中にさらぬ別れのなくもがな千代もと嘆く人の子のため
「たわけがっ!!」
銀邇は叫びながら立ち上がり、弱る少女の胸倉を掴んで無理矢理立たせた。
彼女は小さく悲鳴を上げた。
恐怖で歪みきった顔を、銀邇は目を吊り上げて睨みつける。
公任は慌てて立ち上がって銀邇を止めようとしたが、見事に無視された。
「何が『殺して』だ!! テメエはこんな所を墓場に選ぶのか?!!」
銀邇に掴まれて爪先立ちになったまま、静かに涙を流す。
「親父さんはほぼ全身を火傷して、ほとんどは爛れてた!! それってつまり、燃える家の中、お前を探した証拠だろ!? それに葵は!! 火の中のお前らを助けようと、命張って水用意して医者を呼びに行った!!」
吊り上がっていた銀邇の目が優しくなる。彼の腕が下がって、陽露華の足が地についた。
「お前は、俺たちに、生かされたんだ。『死にたい』なんて……言うなよ……」
銀邇は昔を思い出していた。どうしても、あの日と重ねてしまう。
弱い声で、胸倉を掴んだまま、頭を下げる。
「……頼むから、生きてくれよ。……親父さんの分まで」
陽露華はただ、溢れ出る涙を流すしかなかった。目の前の若い男の頭を、見つめて。