第1章 思ひせく胸のほむらはつれなくて涙をわかすものにざりける
陽露華が目を覚ました時には、太陽は西に傾き、空を茜色に染めていた。
突如、右腕から背中にかけて激痛が走る。
陽露華は仰向けからうつ伏せに体勢を変えて、気づいた。
ここ、家じゃない。
周囲は統一性のない木々が囲い、無作為に雑草が積まれた上に誰かの着物を敷いて、その上に自分が寝ている。
「あっ……あぅ!」
痛みに喘いでいると、目の前の茂みから1人の男が出てきた。
銀邇だ。何故か褌姿だが。
陽露華は思わず顔を赤らめて伏せるが、息苦しさでむせ返り、更に痛みで喘ぐ。
「……大丈夫か?」
銀邇が心配して近づいて来たが、陽露華にとって困った状況に変わりはない。
銀邇の鍛え抜かれた上半身が夕日に照らされ、陽露華は眩しさと恥ずかしさで消えてしまいたかった。
ただでさえ、男性と縁のない人生を送ってきたにも関わらず、突然裸を見せられて正気でいられる方が無理な話である。
陽露華は茹で鮹の様に耳まで真っ赤になって、蒸気も見えそうな顔色だった。
銀邇は顔を顰めた。明らかに彼女の様子がおかしいが、原因がわからない。
「おい、熱でもあるんじゃ……」
額を触ろうと銀邇が手を伸ばした瞬間、
「きゅうぅっ」
彼女は変な声を出して気絶した。
銀邇はますます訳が分からず、行き場を失った手を彷徨わせていると、
「銀ちゃん、戻ったよ〜」
相棒が呑気な声と共に帰ってきた。
そして、褌一丁の銀邇と彼の着物の上で茹で鮹の様に真っ赤な顔の陽露華を見て、思わず一言。
「この天然誑し」
銀邇は公任の言い草が気に入らなかった。
「おめーじゃねんだよ」
「俺は“天然”じゃないもーん」
「それはそれで問題だな」