第1章 思ひせく胸のほむらはつれなくて涙をわかすものにざりける
「さあ、出て行ってもらおうか」
Uは銀邇と公任に言い放つ。
野次馬の群衆は皆、好奇の目で火事現場の前に立つ3人を見ている。
半鐘は鳴り止まない。
公任は刀をしまうと、Uを見る。
「旅籠を燃やしたのは何故だ」
Uはうんざりしたように溜息を吐くと、公任を睨んだ。
「それは、お前たちが1番わかってると思うけど?」
銀邇が答える。
「『黄金の草原』か」
「ほらね」
Uはどこか得意げだった。
公任はUを見る目をさらに険しくする。
「君も『失望者』か」
Uは口の端を引き上げ、目を細めた。肯定だ。その顔のまま一歩、足を引く。
「正直、俺は『本』さえ燃えてくれたら何でもいいんだ。これで失礼するよ」
そして踵を返して、自然と出来上がった野次馬の道を抜けて、消えてしまった。
奴を追いかけても意味がない事は、公任も銀邇も、身をもって知っている。
町火消が遅い到着を果たしたのと入れ違いで、公任と銀邇は陽露華を連れて町を出た。
公任は銀邇に羽織りを返す。
職務怠慢を訴える気力もなく、3人は雑木林に身を隠した。
川の浅瀬で陽露華の火傷の応急処置をする。
生憎、公任も銀邇も持ち物は懐に入れられるもののみで、塗り薬は持っていなかった。
「これ、痕になるね」
「ああ」
陽露華の右上腕から背中までの痛々しい火傷痕。掠れた呼吸から、煙をかなり吸っていることも伺える。
「こいつ、どうする」
銀邇の問いかけに、公任は少し考えて、かなり考えて、だいぶ考えて、陽露華を見て、決めた。
「目が覚めたら、全部話して、意思に従おう」