第12章 まづまづしばらく日和を見るつもりだ
「あ、あおい……」
感動の再会ではない。言うなれば、絶望の再会だろう。
死んだと思っていたはずの友が、別人格になって生きている。
陽露華の脳裏に、葵と初めて会った日のことが駆け抜けて行った。しかし現実は感傷に浸る隙さえ生じない。
「あー、君が村崎陽露華でひろって呼ばれてた娘で間違いないね。ほんっと記憶通り、葉留佳さんとそっくりね。他人の空似かな」
顎に手を当てて首を傾げる葵は、陽露華を舐め回すように観察する。
公任が陽露華を背中に隠すと、明らかに不満そうな顔をした。
「ちょっと? 何してるの?」
「それはこっちが言いたい。連れをじろじろ観察されて、不快に思わない奴がどこにいる?」
公任は葵を睨め付けて殺気を放つ。
「いい加減名乗ったらどうだ。そっちは俺たちのことを知っているようだけど、俺たちはお前のことなど知らん」
葵は小さく舌打ちするとこう言った。
「名乗るような名を与えなかったのは人間だろうが」
刹那、“死” を見た。
息の詰まるような肉を焼く臭いと、赤くも黒い世界。
それが陽露華の眼前に広がり、収縮し、暗くなった。
陽露華がすぐ側に公任の匂いを感じた時、自身の両目と額を覆う手が彼のものであると気づく。
「言語とは実に愚か」
葵の声が響く。葵の声なのに、葵が話しているわけではない。
「固有名詞がなければ通じぬ」
公任の手が冷えていくのを肌で感じた。
「故に、名を冠する必要がある」
公任の手が緩み、陽露華は葵とその後ろに控える葉留佳を見る。
「私は日向葵であって、日向葵ではない。そして」
葵は公任を指し示す。
「彼もまた、佐伯公任ではない」
陽露華は自然な動きで公任を見上げる。
公任は葵に瞠目し、息を呑んでいた。
「朱雀、白虎、玄武は元気か? 青龍よ」