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黄金の草原

第12章 まづまづしばらく日和を見るつもりだ



葵の言葉で、公任は陽露華を背後の水路に突き落とした。それに続いて銀邇も飛び込み、陽露華を抱えて反対の岸に上がる。


「ぎ、銀邇さん!?」
「黙ってろ」


銀邇の青い顔に陽露華は言葉を失い、公任に目を向けた。

公任の体から青白い靄が立ち上り、周囲の人々の視線を集める。周囲の喧騒は一層大きくなり、建物内から見物している人も。

葵はくすくすと笑いながら、悠然と葉留佳の背後に隠れた。


「名を呼ばれて自制できぬようじゃ、この旅はもう辞めにしたらどうだ。これ以上は無意味だろうに」


公任の纒う青白い靄が拡散と収縮を繰り返し、徐々に肥大化し形作っていったのは——



昼の空に溶け込むほどの蒼穹の龍。

龍は太陽の光を受けず、一般人には見えていない。「本」に関わっていない、一般人には。



空が轟いた。
腹の底を押し潰すような重低音と、背を握られたような余韻。


公任は刀を龍の如くしならせ、葉留佳の首を狙い、一閃を引き裂く。


切れたのは、葉留佳の首でも、葵でもない。

彼女らの背後の平屋。その数、数十軒。朽ち果てた樹木が自身の重さに耐え切れずに崩れるが如く、建物が平たい木屑と化す。


突如として耳に返ってきた本来の音。

華やかな憎悪渦巻く街は、荒地となる。

逃げ惑う人々が街を埋め尽くした。
悲鳴、怒号、慟哭……自身の欲のために他人を犠牲にする人間の本性の全てが、今露見する。


「おー、怖い怖い」


葵は葉留佳に肩車されて、上空に漂っていた。髪を緩やかに靡かせ、着物の袖は意思を持ったかのように不規則な動きをする。
葉留佳は重力に逆らい切れず、必死に葵の足にしがみついていた。

今尚、青い瞳を地上から向けてくる青龍に葵は眉を顰めた。


「街を半壊にしたから、上空で戦うのが望みかと思って昇ってみれば、奴は飛ぶ気配もない。どういうことだ?」


葵は視線をずらして、人々に押されて水路に転落した陽露華と銀邇を見る。


「なーるほどねー……ふーん……へえー……そう……」


葵は人差し指と中指を立てた右手を斜め下に振り下ろす。

ゆっくりと下降し、葵は満面の笑みを浮かべた。


「龍を飼うとは、やるじゃない」


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