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黄金の草原

第12章 まづまづしばらく日和を見るつもりだ




「あの、すみません!」


銀邇は袖を何者かに掴まれて振り返ると、彼は息を飲んだ。


「銀……だよね? あたしのこと、覚えてる?」


公任、銀邇、陽露華の目の前にいるのは、不安そうな顔をする女性。


「はる……か……?」


銀邇が絞り出すように名を口にする。
女性は朝顔のように笑った。


「うん! そうだよ! 葉留佳(はるか)だよ!」


銀邇は葉留佳と名乗った女性に近付き、手を伸ばし、頬を撫でる。


「本当に、本当に……葉留佳なのか?」
「うん。本当だよ。銀は変わらないね」


葉留佳は銀邇の手に自分の手を添えた。

額を擦り合わせる2人を、公任と陽露華は遠目に見ていた。


「お前、なんでここにいんだよ」


銀邇の声は甘く優しく、愛おしそうに紡がれる。


「ずっと遠くに行っちまったんじゃないかって、ずっと探してたのに」
「でもあなたは戻ってきてくれた」


葉留佳は銀邇の首に腕を回す。


「もう離したくない」
「もう離さない」


銀邇は葉留佳の腰に腕を回した。

公任は陽露華の手を離して背後に隠す。


「公任さん?」
「陽露華ちゃん、下がってて。出来れば、俺が今からする事を見ないようにしてほしい」
「何をする気ですか」


公任はすらりと刀を引き抜く。陽露華は公任の腕にしがみついた。


「離して」
「いやです。あの女性がどなたか存じ上げません。銀邇さんとの関係も存じ上げません。しかし、公任さんのしようとしていることは、だめだと思うんです」


公任は黙って陽露華を見下ろす。顔に影が落ち、瞳の鋭い青が陽露華の目の奥を突き刺した。
陽露華はその気迫と痛みに思わず手を離しそうになったが、どうにか堪えて着物を握り直す。


「離しません」
「じゃあそのままでいい」


公任は陽露華を腕にぶら下げたまま、葉留佳と抱き合う銀邇の背中に近付く。


「公任さん! だめです! 銀邇さん! 逃げてください!」


陽露華の悲鳴は通行人の足を一瞬緩めるだけで、何の解決にもならない叫びだった。



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