第12章 まづまづしばらく日和を見るつもりだ
逃げられない。
そもそも、人相書きが出ていると言われた時に逃げればよかったんだ。
訂正。無理だ。当時足を捻挫していた。
食われる。
陽露華は今、その一言で心中が支配されている。
怖い。
気持ちの奥底で叫ぶ声がする。
(お父様、私は、今、どうすれば)
「陽露華ちゃん」
思わず顔を上げたのが運の尽き。
世界が青になった。
「君のお父さんは、何をした? 何のために、あそこにいた? なぜ旅籠を営んだ?」
陽露華の口が声が、意思に反して言葉を紡ぐ。
「神殺しをしました。死体の回収をあそこで待っていました。外の者が長期滞在しても怪しまれない職業にする必要がありました」
「つまり、殺した神は1体だけではない?」
「はい」
公任が目を閉じると、陽露華は糸が切れたように倒れ、銀邇が腕で受け止めた。
「公任、まさかとは思うが」
「そのまさかだよ」
続きを言ったのは公任だった。
「親父さん、生きてる。あの場にいた葵ちゃんも……最悪な形で」
公任は頭を抱えた。
銀邇は腕の中で項垂れる少女を見下ろした。