第12章 まづまづしばらく日和を見るつもりだ
「公任、次はどこへ行くんだ?」
朝餉を食べながら銀邇がこう切り出した。
陽露華の視線も受けながら、公任は箸の先を軽く噛んで考える。
「うーん……。南下したいんだけど、実はちょっと気になってる事があって」
そう言いながら、公任は陽露華を見る。
「陽露華ちゃんのお父さん、道治さんの実家」
陽露華はぽかんとして、銀邇は首を傾げた。
「なんでだ」
「村崎って、偽装した苗字でしょ?」
公任は銀邇をすっかり無視して陽露華に問う。
「普通は婿入りした男が実家の苗字を名乗れるわけないでしょ? でも道治さんの家ならできるはずだ。佐倉家なんか足元にも及ばない、大きな後ろ盾を持つ家だから。離婚して戻ってきた息子がいても、全く噂にならない家」
陽露華は顔を伏せた。
「それなのに、わざわざ苗字を偽装してまで花街の一角で旅籠を営んだ。偽装したのにあっさり住所は特定されるし、旅籠なんて外の者とよく会う職業の1つだよね。なんで隠れようとしてるに、情報が手に入りやすいようになってるのさ?」
もう、隠せないか。
陽露華が意を決しようとした時、
「苗字の偽装した証拠でもあるのか?」
銀邇がそう聞いた。
陽露華が驚いている前で、2人は続ける。
「あるよ。あの旅籠に何があったのか、銀ちゃんも気づいてたでしょ?」
「まあな。見つけてください、とでも言いたげに置いてあったからな」
「道治さんが苗字を偽装したのはきっと、自分の家が大嫌いだから。でも昔からの慣習で、思わずあの旅籠に証拠を残してしまった」
「旅籠を営んでいた理由は?」
「そりゃあ人の出入りが多けりゃ、それだけ証人が増える。自分の無実は全部客が示してくれるからね」
「わざわざ本を買い込んでいたのも?」
「うまく紛れさせているつもりだったけど、銀ちゃんが一眼見て気づいたんなら、道治さんはまだまだ素人だったってことだよ」
公任と銀邇が同時に陽露華を向いた。
陽露華は伏せた顔を青ざめさせて、その視線を受ける。
「全部、話してくれる?」
公任は獰猛に笑った。