第12章 まづまづしばらく日和を見るつもりだ
陽露華が目を覚ましたのは、銀邇の背中だった。つまり、おんぶされている。
「え!?」
「起きたか」
銀邇はそれだけ言って下ろそうとしない。
前を歩いていた公任は振り返ると、にっこり笑いかけた。
「さっきはごめんねえ。無理矢理自白させちゃって。こうでもしないと、陽露華ちゃん発狂しそうで怖かったから」
さっきのは夢じゃない。
そういえばここもあの林じゃない。ただの田圃道だ。
公任は両手を首の後ろで組む。
「親父さんが神殺しでも、旅籠に死体を隠してても、正直言って、俺も銀ちゃんも興味ない。とやかく言うのは、精々天皇家くらいでしょ」
「安心しろ。今の天皇家は鼻が悪い。堂々としていれば見つからん」
銀邇もさらりと言ってのける。
陽露華は何も言う気が起きず、銀邇の背中に体を預けた。
「陽露華ちゃん、次の目的地は……どこだと思う?」
「え?」
急に問われて驚いた。公任はにこにこ見てくる。
陽露華はとりあえず何か答えようと考えたが、公任が時間切れを宣告した。
「正解は……俺と銀ちゃんが出会った場所!」
そう言って公任が指差した場所は、大きな街だった。
平家が立ち並び、商店が乱立し、屋台も賑わっている。
警察官らしき人や派手に着飾った人も見えた。
どこからともなく人の笑い声や音楽が聞こえてくる街である。
人工的に水路が整備されて、中心にある高い塔から水面を打つように六角形の水路が広がる。
水路の幅は広く、船が渡っている。
異国にでも迷い込んだかのように錯覚する街だ。
しかし建物に使われている材料は、明らかにこの国の建造物に見られるものと同じ。
「ここは『第二の花街』と呼ばれるくらい、遊郭も盛んでね。陽露華ちゃんのいた花街は、女性が主役だ。でも、この街はそうでもない」
公任は街の地区をいくつか指し示す。
「あの辺りは娼館が集まってて、娼婦だけでなく男娼も多い。で、そっちの方は見世物小屋。女性と犬の性行為が人気なんだよ。その向こうがまたさらに特殊趣味(マニアック)向けの建物」
陽露華は青い顔で口を手で覆っていた。
銀邇が「吐くなよ」と言っている。陽露華は意地でも堪える決意をした。
随分刺激的な街である。