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黄金の草原

第11章 この日や天晴れて、千里に雲の立ち居もなく



夜の帳が降りて、辺りを空気が静かに流れて行く。
夜空には星が瞬き、満月になりきれない月が出ている。

夕餉を終えて皿洗いをしていた花子は、台所の窓から空を見上げる。

昼間、出立直前に陽露華が言っていたこと。


(一緒に星を見ようって、言いたかったのかな)


今日は七夕。
例年より気温の低い夏だが、空は綺麗に澄んでいて、この調子なら天の川も見えるだろう。

そう思っていた矢先。

空が眩しく光った。次の瞬間には雷鳴のような音が轟く。

何事かと勝手口から出ると、丁度光が一閃、空に登って行き、


大輪を咲かせた。


「花火だ!」


村のどこかからかそんな声が聞こえてきた。

花子は夫と息子を連れて村の中心に向かう。そこには既に皆が集まって空を見上げていた。

また轟く音。もう雷鳴なんかと聞き間違えない。


「いっけー!」
「1発大きいの持ってこーい!」


村人の歓声は、彼女たちに届いているのだろうか。


「ありがとー!!」


花子は空に向かって叫んでいた。





「真下だとやっぱすごいねー」
「ああ」


公任と銀邇が見ている天幕付近から少し離れた空き地で、陽露華は両手を空に掲げて舞っていた。

彼女が腕を振り上げるたびに花火が打ち上がり、辺りを色鮮やかに照らし出す。

公任は胡座に頬杖をつき、銀邇は木にもたれて立っていた。

赤、黄色、緑、紫……。
夜空に大小様々な花が咲く。

花火の舞台は、ついに最終局面(クライマックス)へ。

怒涛の打ち上げに陽露華は空き地いっぱいに走り込み、最後は一際大きな花火を咲かせて、終幕。

公任と銀邇は、少女役者に拍手を贈る。
陽露華は襟を正して礼を返す。


「村の人たち、楽しんでくれましたかね」


寄ってきた2人に、陽露華はそう尋ねる。


「もっちろん」
「ちゃんと見てくれてたさ」


公任と銀邇が笑いかけると、陽露華も笑顔を見せた。


「でも、ちょっとやり過ぎちゃいました」


陽露華は自分の皮が捲れた掌を見下ろす。

これもまたひとつの思い出だ。



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