第11章 この日や天晴れて、千里に雲の立ち居もなく
花火が終了し、公任と銀邇は天幕に入ろうとしているが、陽露華はまだ外にいた。
余韻に浸っているのかと思ったが、そんな様子でもない。
陽露華は迷っていた。
昼間、奴に遭遇したことを、公任と銀邇に話すべきか。
なるべく隠し事は避けたい。しかし時には隠しておくことも大切だ。
でも、奴はいわば共通の敵。会敵しているなら伝えた方がいいと言うもの。
陽露華は意を決して、天幕に近付く。
「公任さん、銀邇さん、あの」
陽露華が声を掛ければ、2人は同時に振り返った。
黙って次の言葉を待っている。
「あの……」
陽露華は言葉に詰まった。
言葉が出てこない。
会ったといえばいいのだ。邂逅したのだと、言うだけだ。
けれども、名が出てこない。
誰と会った? 誰と話した? 何をした? 何をされた?
いつ会った? 夜? 昼? 朝?
自分は、何を話そうとした?
「……私のわがままを聞いてくださって、ありがとうございました」
陽露華は深々と腰を折った。
公任はにっこり微笑む。
「いいのいいの。陽露華ちゃんのわがままなんて貴重だからね。叶えれるものは叶えたいの。俺も楽しかったし。ねえ銀ちゃん」
「ああ、そうだな」
「まさか。銀ちゃんも陽露華ちゃんのわがまま聞いてあげようと考えてたなんて……!」
「はあ!? なんでそうなる! 俺の肯定は『楽しかった』に対してだ!」
「またまた〜」
公任はすっかりいつもの調子だ。銀邇も公任につられてか、肩の力が抜けている。
陽露華も頬が緩む。
ひとつの天幕に仕切りを立て、3人は眠りについた。