第1章 思ひせく胸のほむらはつれなくて涙をわかすものにざりける
夜も深まってきた頃、蝋燭の明かりで本を読んでいた陽露華の元へ、銀邇が来た。
本を閉じて、開けっぱなしにしてある襖を見ると、縁側に銀邇が立っている。
夕方の公任、夜の銀邇。
陽露華の警戒心はますます強くなった。
「厠はどこだ」
なんだ、そんなことか。
「そこの突き当たりです」
「悪いな」
銀邇はすぐにいなくなった。
公任の時とは違った。
変に身構えたりして申し訳ない事をした。
緊張が解けたせいで、眠気が襲ってきた。
陽露華は蝋燭を消すと、敷いて置いた布団に潜り込む。本には栞を挟んで枕元に置く。
襖を締めると、部屋は一層静かになった。
厠から人が出てきた。銀邇だ。
縁側を軋ませて歩き、陽露華の部屋の締まった襖の前で一瞬止まって、また歩き出す。
銀邇は縁側を進み、突き当たりの階段を上る。
2階に上がって、階段に近い部屋から、U、公任、銀邇が部屋を使っていて、2階の部屋は満室だ。
銀邇は部屋に入ると、窓からふと夜空を見上げた。
星が瞬き、月が煌々と輝っている。
静かに夜は更けていく。
嵐の前の静けさとは、この事だろう。