第7章 愛の謂れ
「俺はこの先もアイツと顔を合わせつもりは無ェぜ。無論、一切の手助けもしねぇ。玄弥が鬼殺隊を辞めるってんならァ話は別だが···。いざとなりゃァ、テメェにゃ何の才覚も無ェんだってェことを叩き込んで辞めさせてやる」
実弥は拳をきつく握った。
「人間には向き不向きってもんがァあんだろ···? アイツは剣士には向いてねぇんだ」
まるで玄弥を目の前にしているかのように、実弥は声を湿らせた。しかしそれはひとつの導きであるに過ぎない。例え玄弥が呼吸を習得できたとしても、到底許容はできないだろう。
実弥は在りし日の自分を悔いていた。
『家族は俺たちふたりで守ろう』
父親が死んですぐの頃、玄弥にそう言って聞かせたことを。
『これからは、俺とお前でお袋と弟たちを守るんだ』
導いたことで、玄弥に同じものを背負わせてしまったのではないのか···と。
もとより実弥の後ろを追いかけてくるような弟だったが、それ以来、玄弥は一層実弥のあとを付いて回るようになった。
兄ちゃんが頑張ってるんだから、俺だって頑張れる。
後は俺に任せて、兄ちゃんは楽しててくれよ。
兄ちゃんひとりにつらい想いはさせない。俺も、一緒に。
兄として冥利に尽きた。頼もしい弟だった。玄弥がいたからこそ乗り越えられたことが山ほどある。救われた。それはまごうことなき真実だ。
残された、ただ一人の肉親。俺の弟。
気持ちを偽らなくても解決するなら、すぐにでもお前のもとへ飛んでいってやりてぇさ。
随分長いこと散り散りになっていたが、玄弥を忘れたことは片時もない。
なァ玄弥。
あれからお前は、どうしてたかなァ。
玄弥一人を残して家を出ちまったこと、どれだけ詫びても足りやしねぇことは承知している。
手前勝手な兄ちゃんですまねぇ。
兄ちゃんなのに、皆を守ってやれなかった。
約束したのに、誓ったくせに。
悲しませちまって、苦しませちまって、申し訳がたたねぇんだ。
だからこそ、頼むよ玄弥。鬼狩りなんかやめてくれ。お前にゃ全うな幸せを手に入れて年老いるまで生きてほしい。
好いた女と縁を結んで、家族を増やし温かな住まいを築いてくれよ。