第26章 番外編 ② 或る風の息吹の
星乃の手から差し出された湯呑みを受け取ることには若干の戸惑いを覚えた。
煎茶の波間に立つ茶柱を寸刻眺め、自分の汚れた手がきめ細やかな素肌にむやみに触れてしまわないよう気にかけながら湯呑みを受け取る。
「──…まァ、なにかありゃ頼りにさせてもらう」
素直に‘’ありがとう‘’こそ言えなかったものの、しかしいつしか実弥の心にも周囲に大層世話になっているという自覚が芽生え育っていた。
少しはほうっておいてほしい。正直そう思うときも無きにしもあらずだが、任務で忙しいはずの二人がたびたび土産物を手にここまで足を運ぶ心遣いが決して楽なものではないことはわかる。
鬱陶しいと感じることの多い匡近にさえ、奴と出逢わなければ鬼殺隊への道も開けずにいたのだと思うと完全には邪険にできない。
「なァ、風の呼吸とやらはどうすれば即座に習得できる」
唐突な問いかけに驚いたのか、星乃は目を丸くして実弥を見つめた。
「もう呼吸の訓練をはじめているの?」
「いいやまだだ。だが師範の技を一通り見た。俺も一刻も早くこの手で‘’そいつ‘’を操れるようになりてェ」
星乃の傍らに置かれた日輪刀に目をやる。
師範のように。
匡近や、星乃のように。
自らが呼吸を使い鬼の頸を斬首する場面を日々頭のなかで何度も思い描いている。
「あなたなら······実弥ならきっとすぐに風の呼吸を会得できるわ」
「アンタも風を使うんだろ?」
フルフルと、星乃は頭を左右に振った。
「私は、風の呼吸は継承していないの」
「継承してない?」
「できなかった、と言ったほうが正しいかな······。呼吸には、風の他にもたくさんの種類があってね。炎、水、岩、雷とともに風は呼吸の基本となる五大流派のうちのひとつなの。上手く扱えるかは、適性にもよる。私が使用している呼吸は‘’季の呼吸‘’といって、風の派生よ」