第7章 愛の謂れ
厚焼き煎餅を噛み砕く実弥の傍ら、女二人は恋の談義に盛り上がる。
「それでね、伊黒さんがこの靴下をくれたの」
「素敵ね~! 蜜璃ちゃんの髪の色に合わせてくれたのかしら」
「そうかなそうかな、そう思う!?」
可愛いなあ。
幸せそうな蜜璃の笑顔を見ていると、星乃まで目尻がとろけてしまいそうになる。
蜜璃の意中の相手とは、伊黒小芭内のことだった。
蛇柱の【伊黒小芭内】
左右で別々の色をした珍しい双眸が特徴的で、肩に乗せた鏑丸という名の白蛇と常に行動を共にしている。
口もとを包帯で隠したどこか影のある彼も、鬼殺隊の柱の一人だ。
星乃と小芭内は面識はなく、ただし一風変わった様相をしていると噂されることからその存在自体は知っていた。
小芭内だけではない。
一般隊士が柱と対面できる機会はあまり無く、水柱の【冨岡義勇】や音柱の【宇髄天元】など、星乃は彼等と接触したことこそなかったが、少々変わり者ばかりだと話題に上る柱は何かと逸話を残していることが多く、一般隊士時代からその名を轟かせている人物ばかりだった。
蜜璃と小芭内は時折食事に出かけたり文通をする仲で、小芭内からの贈り物の靴下は、丈短なキュロットスカートを恥じらう蜜璃を気遣ったものである。
蜜璃は、小芭内への感情が恋い慕うものであるかはまだ断言できないという。
それでも、近頃の楽しみは? と問われれば、小芭内との食事や散歩に出かける時間が真っ先に思い浮かぶのだと。
小芭内の素敵なところ。
言われて嬉しかった言葉。
出かけた場所。
鏑丸の可愛いところ。
そして、小芭内は自分をどう思っているのだろうか。青色吐息。
そんな乙女な話に花を咲かせ時は過ぎ、実弥はいつしか隣で小さないびきをかいていた。
「蜜璃ちゃん。今日はご馳走さまでした。次は美味しいジャムの作り方を教えてね」
「もちろんよ! なんだか途中バタバタしちゃったけど、すごく楽しかったわ! また絶対にお茶しましょうね」
星乃と蜜璃は両手を固く繋ぎ合わせて約束をした。
目覚めたばかりの実弥は寝惚け眼で別の方角を見ている。