第6章 甘い蜜にはご注意あれ
「これはこれはなんと素晴らしい。やはり甘露寺様に掛け合って正解でしたとてもよくお似合いです」
指先で眼鏡の中央を押し上げながら、まさおは得意げな様子で舌を回しながらやって来た。
「さて飛鳥井様のほうはどうでしょうか実に楽しみです」
意気揚々と接近してくるまさおに対し、蜜璃は身振り手振りで"来てはいけない"ことを懸命に伝えようとした。蜜璃も例の噂を耳にしていた。
当のまさおはあたふたする蜜璃にさえ『可愛らしい』などとお門違いに愉悦するばかりである。そして、蜜璃の尽力も虚しくとうとう魔の領域へと足を踏み入れてしまったのだった──。
「そういえば、さきほどからなにやら騒がしいような」
「久方ぶりだなァ······前田よォ」
「&%@☆%#$☆¢!?」
まさおは失神しかけた。
血走った双眸が顔面すれすれの距離から現れたのだ。となれば、驚愕のあまり意識の尺度が卒倒寸前まで急上昇してもおかしくない。いやむしろ、いっそ失神してしまえばよかったぜちくしょうとまさおは涙を滲ませた。
天国から地獄へと、突き落とされた瞬間である。
「し、不死川様、なぜここに」
「あァ···? いちゃあ悪ィかよォ」
「いえ、まさか、そんな、ごぶ、ご無沙汰しておりま、っふ」
噛んだ。つんだ。
いやまさお、お前はもう詰んでいる。どこからともなくそんな台詞が聞こえてくる。
「相変わらずテメェはのうのうと好き勝手してやがるみえェだなァ···」
「あのはいあのおかげさまでひびこのようにみなみなさまのたいふくをよりよくできぬものかとほいせいががりとしましてはごいけんをうかがいたく、ひぃ──っ!?」
ぐわし!
実弥に胸ぐらを荒々しく掴まれる。拳に浮き上がる血管を見て、首もとに相当な力が加わっていることがまさおの視覚からも認識できた。
直後は宙に吊し上げられ、恐怖と息苦しさで全身が痙攣しはじめる。
「テメェみてェに懲りねェ奴ァ、痛い目見ねェとわかんねぇのかねえ···」