第6章 甘い蜜にはご注意あれ
「け、喧嘩はだめだよ···!」
「実弥、前田さんから手を離して···っ」
「なァに、別に殴りゃしねぇよォ···。ほんの少しばかり、ブチ殺すだけだァ」
え、今なんて······?
制裁基準がめちゃくちゃだわ······!
もはや狂気の沙汰じゃねえか······!!
喫驚仰天の様子で固まる三人。こうなった時の実弥に理屈は通じない。絶望の極みだ。このまままさおはブチ殺されてしまうのだろうか。
「言い残すことはねぇかァ、前田ァ」
「あり、ありませ」
「ねぇのかァア!?」
「いえありましたすみませんほんとうにもうしわけございませんもうにどどこのようなことはいたしませんのでなにとぞ」
息も絶え絶えに訴えるまさおをしばらく鋭利な視線で睨みつけると、実弥はようやく掴んでいた胸ぐらから拳を離した。
──どすん。
床に尻餅つくまさお。茫然自失の状態でハアハアと息をするまさおの前にしゃがみ込み、実弥は丸眼鏡の奥の開いた瞳孔をこれでもかと凝視してくる。
まばたきも出来ない威圧感に乾く眼球。もう意識が飛びそうだ。涙を浮かべながらまさおは思う。
俺は死ぬのか···? ああ、もっと多くの女性と触れ合いたい人生だった···と。
甘露寺様や飛鳥井様にはまだ着てもらいたい服がたくさんあるのだ···。胡蝶様やカナヲ様にだって···あんなものやこんなものを···フフフ、フフ。
無法地帯になりはじめるまさおの思考。眼前がパアッと白い光に包まれて、きっとお迎えにきた観仏様の尊い光なのだろうとまさおは安らかな心地に満ちた。
「いいか前田ァ、三度目は無ェ。その厚かましいツラの皮剥いでなぶり殺してやるからなァ、せいぜい肝に銘じとけよォ」
まさおは実弥に力なく微笑んだ。
問題はない。なぜならこの前田まさおには、神の御加護があるのだから───…
「次はテメェの指根っこからブッた切って二度と使いもんにならねぇようにしてやるよォ······! 猶予はやらねェ瞬殺だァ! 有無を言わさずなァア!!」
「─────…」
まさおは失禁した。