第6章 甘い蜜にはご注意あれ
「星乃ちゃん、せっかくお茶にきてくれたのにこんなことになってごめんね」
「ううん。蜜璃ちゃんのせいじゃないし、しかたないよ。前田さんも悪いひとじゃないんだけど」
「ああ見えて前田さん、縫製の技術は一流なのよね」
「隊服を見た呉服屋の女将さんも、ここまでのものはなかなかお目にかかれない仕立て物だって唸ってたわ」
「すごいひとなのに」
はあぁぁ、と長いため息ひとつ。
「「ちょっと破廉恥がすぎるのよねえ······」」
星乃と蜜璃は同時にがっくりと肩を落とした。
「甘露寺ィ、いるかァ」
試作の服に袖を通しはじめてすぐのこと、玄関のほうから今度は聞き覚えのある声がした。
気骨稜稜としたものを印象付ける、低い声音だ。
着替えの手を止め、星乃と蜜璃は互いに顔を見合せた。
「今のって、不死川さん、だよね?」
恐る恐る、蜜璃が実弥の名前を口にする。
広さ六畳間ほどの納戸部屋。客間と茶室を障子帯戸で仕切った狭間に位置しているこの部屋は、蜜璃が普段から身支度を整えている場所である。
ごくり。
星乃もまた息を飲み無言でうなずく。
蜜璃は化粧台付きの三面鏡と向かい合い、被った服の襟首からあせあせと顔を覗かせた。
「な、なにかしら。任務関係のことかな」
「オォイ甘露寺、いねぇのかァ?」
「あ、あ、待って待って、はいはいはーい! 甘露寺蜜璃います!」
「まって蜜璃ちゃ···っ、その格好で···!?」
さほど気にする様子も見せず、蜜璃は軽やかに納戸を飛び出し行ってしまった。
まさおは手水 (ちょうず) へ赴くと席を外したばかりなので、今隣の客間はもぬけの殻となっている。
遅れて着替えを終えた星乃は客間に移動し、格子戸の隙間からそっと玄関先の様子を伺う。