第6章 甘い蜜にはご注意あれ
「実は、女性隊員の隊服の"りにゅーある"を考えていましてね」
バサッ。まさおの手から、星乃の前に黒地の織物が広げられる。
リニューアルとはつまり、隊服を新しくするつもりということか。
まさおから手渡された"それ"を見ると、試作段階らしくところどころ仮縫いのような粗さが見られた。そして、胸もとがとても大きく開けた形をしてることに驚く。
蜜璃の着る隊服は詰襟で、前ぼたんを留める箇所が一部分開いている形だ。一方でまさおが今手に持っているものに前襟はなく、ざっくりと切り込みを入れたように鎖骨から胸もとが開いている。
星乃は絶句した。
特別な繊維で作られている鬼殺隊の隊服は、通気性は良いが濡れにくく燃えにくいという戦闘にはもってこいの代物である。雑魚鬼程度になら引っかけられても破れもしない。
それだけ素晴らしい代物にも関わらず、さらなる質の向上を目指し縫製係が試行錯誤を繰り返していることは知っている。
自分たちの能力を存分に発揮できるのは彼等が作る隊服のおかげでもあるのだから、是非とも協力できることならしたいと考えているのは星乃だけではないはずだ。
しかし、この形は少々破廉恥なのでは······?
「何枚か試作段階のものを用意してきましたので、実際に着用してみていただけないものかと甘露寺様にお願いにあがったのです。飛鳥井様もいらっしゃるとあればぜひお二方に」
まさおの鞄から次々と取り出される隊服を見て、星乃と蜜璃は目玉が飛び出るほどにぎょっとした。なぜなら、そのどれもがえげつないほど肌露出の多いものなのである。
「ま、前田さん。私たち、今の隊服でも十分ですから、これはちょっと」
赤面しながらそれとなく断りを入れる星乃と、青ざめた顔でうんうんと力強く首を縦に振る蜜璃。
人の良い蜜璃なら断れず試着してくれるだろうとの魂胆でわざわざ甘露寺邸にまでやってきたのだと思うと、別の意味でまさおからは隊服にかける執念のようなものを感じた。
「それはさておき甘露寺様。貴方様は先ほど私が土産として差し上げた桜餅を嬉々として受け取りましたよね······?」