第6章 甘い蜜にはご注意あれ
それは思いがけない告白だった。
「蜜璃ちゃん、私のこと知ってたの?」
「うん。まだ柱になる前のことなんだけど、私、町で星乃ちゃんを見かけたことがあるの。なんて綺麗な子なのかしら!って思ってね、そのとき一緒にいた煉獄さんに星乃ちゃんのことを聞いたのよ」
「──杏寿郎に?」
「私、いっとき煉獄さんの継子だったのね。結局炎の呼吸ではなく恋の呼吸を自分で編み出したから途中で継子は降りてしまったんだけど···。星乃ちゃん、煉獄さんとは幼馴染みなんですってね」
「あ···そういえば以前、杏寿郎の継子の噂は耳にしたことがあったわ。蜜璃ちゃんのことだったのね。じゃあ、杏寿郎のお父様が元炎柱だったお話は聞いてる?」
「あ、うん。煉獄さんから少しだけ」
「杏寿郎のお父様と私の父は同じ時期に柱をしていたことがあって、仲も良かったの。もう長いこと会えていないけれど、小さな頃はお互いの家で遊んだり、時折一緒に稽古もしてたのよ」
でも、まさか町で見られていたことがあったなんて。
照れくさそうに眉尻を下げ、星乃は控えめに頬を緩めた。
「ちょっと恥ずかしいけれど、蜜璃ちゃんにそう言ってもらえるのはとっても光栄だわ」
恥じらう笑顔の周りにひらり。薄黄の花弁が舞った気がして蜜璃はきゅん! と胸の奥をときめかせた。
殿方だろうがレディだろうが、心惹かれるものには素直にときめく十九歳。
一般の良家に生まれ育ち、もとは鬼に私的な遺恨もなかったという彼女の夢は、自分よりも力の強い理想の殿方と添い遂げること。
「それにね、隠にも星乃ちゃんの"フアン"が多いって聞くわ」
「ふぁ、ふぁん? まさかそんな、」
「すみませんごめんください」
蜜璃がお皿に林檎ジャムを追加していると、客人の声がした。
「あれ、誰だろう。今日は星乃ちゃんしか招いていないはずだけど」
「ごめんください。恋柱様はいらっしゃいますか」
「はいはーい、今行きまーす」
男性の声だった。
"恋柱様"ということは、鬼殺隊内部の人間だろう。
蜜璃の手が、満足するまでかけられなかった林檎ジャムの瓶を名残惜しそうにテーブルへ置く。
ちょっとごめんね。そう言って、蜜璃は急ぎ足で客間から出ていった。