第26章 番外編 ② 或る風の息吹の
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その家は、華やかな街を抜けた先にある閑静な家並みの地に佇んでいた。
格子の門扉に、瓦屋根が特徴の数寄屋門 (すきやもん) 。表札には【飛鳥井】の文字。
格子から透けて見える敷地の中には庭園の小路が続いているように見え、母屋は少し奥まった場所にあるのだろうと把握できる。
匡近が門扉に手をかける。
カラカラと音を奏で開かれたそれをくぐり抜けると、土の湿り気とほのかな草木の香りが全身を撫で回した。
穏やかな空気だ、と感じた。
自然と呼吸が深くなり、自分が息をしていることを自覚できるような。
家を出て一人になってから、これほどまでに落ち着く空気感を味わえる場所に来たのははじめてだった。
落葉間際の紫陽花の葉を横目に小路を進むと、ふと、母屋らしき建物の隅に人影が見えた。
女の。
「あれ、星乃···?」
匡近が人影を見やりそう呟く。
遠目から見ても女だとわかったのは、体格や髪型、洋装でいうところのスカートらしきものを履いていたから。それ以外は匡近と同じ装いをしている。
同じ鬼殺隊の一員なのだろう。
匡近が今一度、いくらか通る声で呼びかける。
それに気づいた女がこちらに向かって緩やかに手を振った。
「彼女はこの家の、師範の娘さんなんだ。不死川も挨拶に行こう」
実弥の返事を待たず、すたすたと歩き出す匡近。
実弥の眉間にまたしわが寄る。
母屋はもう目の前にあるのだ。一刻も早くその師範とやらに会い、弟子入りにこぎ着けたいのに。
匡近の仲立ちで門を叩いたとあっては、しかし奴を置いていくわけにもいかない。
実弥は小さなため息を吐き、仕方なしに匡近のあとを追った。
「星乃も来てたのか! こんなところでなにしてるんだ?」
「いちごの苗をね、ここに植え直していたの」
「いちご? へえ~! いちごってこんな葉っぱしてるんだなあ! 確か実がなる前に白くて小さな花が咲くんだろ?」
「ふふ。そうね」
匡近と話をする"星乃"も歳は実弥と変わらぬように見えた。
匡近とは親しい間柄のようで、仲睦まじい様子で談笑している。
そのとき、匡近が「ん?」と何かに気づいた。