第26章 番外編 ② 或る風の息吹の
同時に、この世にそんな部隊が存在したのかと驚かされる。鬼の殲滅を目的としている自分には、まさにうってつけの場所だと思った。
ただし、鬼殺隊に入隊するには幾つかの条件を突破しなければならないという。
まずは育手と呼ばれる人物に弟子入りし、修行後、最終選別なるもので実際に鬼と対峙する。そこで数日間生きのびた者だけが、晴れて鬼殺隊の一員となれるというわけである。
これまでの実弥のやり方を聞き出した匡近は仰天し、「なんて無茶苦茶なことをするんだ···!」と実弥を一喝した。
しかしながら、今日会ったばかりの男に無謀さを叱責されたところで反省などする気は起きない。
鬼を殺すためなら身体など惜くはないという固い気持ちに変化はないまま、実弥は匡近の小言を右から左に受け流していた。
こんこんと道理を説く匡近を何度探るように眺めても、武器と言えるようなものは腰にある刀一本しか見当たらない。
様々な手具足を備え持つ実弥と比べ、ずいぶんと身軽だ。
だが、実弥が匡近に助けられたことは紛れもない事実。
そんな実弥の視線に気づいた匡近の物腰が、ふと穏やかなものになる。
刀の柄に触れながら、匡近は優しい口調で語った。
「これは日輪刀といってな、最終選別を突破すると与えられる特別な刀なんだ」
「特別な刀ァ······?」
「これで鬼の頚を斬ることができれば、鬼は死ぬ」
「!!」
「正直、不死川の向こう見ずな闘い方はあまりにも危険すぎる。自分の身体に刃を振るうなんてもっての他だ。だがそれだけの志があるのなら、育手の厳しい修行にも耐えられるんじゃないかと俺は思う。不死川がその気になればいつでも師範を紹介するぞ」
「···連れてけェ」
「うん?」
「刀一本で鬼を殺すことができるっつぅんならよォ、すぐさま俺をその師範とやらのとこに連れてけェ!」
「うおっ!」
気づけば実弥は押し倒す勢いで匡近の胸ぐらを掴んでいた。
わはは! と匡近が爆笑する。
「本当にいいんだな? 師範の修行は死ぬほど厳しいぞ?」
「んなことで怖じ気づくぐれェなら端から狩りなんざしてねェんだよォ」
フン、と。匡近の襟元から手を振り払う。
一瞬、匡近が見せた笑顔に心がふわりとした気分になったことには、気づかないふりをした。