第26章 番外編 ② 或る風の息吹の
「···きさつたいってのは、」
「お前は?」
「アァ?」
「お前の名前。せっかくこうして知り合って仲良くなれたわけだしさ、教えてくれよ」
「はァ···? いつなんどき誰がァどいつと仲良くなったてェ?」
「今しがた、ここで、俺と、お前が」
「口が減らねェ野郎だなァテメェはァァ···」
「テメェじゃなくて粂野だ。く、め、の。ほら」
「······ (七面倒くせェ···) 」
「なあなあ、いいじゃないか名前ぐらい減るもんじゃあるまいし。あ、もしかして人に教えるのが恥ずかしい名前だったりするのか? カタツムリポチ太郎とか」
「舐め腐ってんのかテメェはァ! 不死川実弥だァ!」
「実弥か! なんだちゃんとした良い名じゃないか」
「···チッ」
そっぽを向く実弥に対し、匡近は声音を一段低くして続ける。
「不死川がこれまでひとりで鬼狩りをしてきた事情を深く詮索するつもりはないよ。ただ、これだけは言える。たったひとりきりでそれをやってのけることは不可能だ」
「···ンなもん、やってみなけりゃわかんねェだろうが」
「鬼は殺しても殺しても減らない。こうしている今にも、絶えず増え続けているんだ。きりがない」
「それでも片っ端からブッ殺してく」
「そう思って闘っている者たちが、お前の他にも大勢いる」
実弥は匡近を真っ直ぐ見据えた。
「それが、テメェの言う"きさつさい"ってわけかァ···?」
匡近は不思議な男だった。実弥が凄めば大の大人でも萎縮して逃げていくのに、匡近は実弥の粗野な態度にも物怖じすることなく接してくる。
いったいなにが愉快なのか、まるでやんちゃな動物と戯れでもするように、嬉しそうに笑うのだ。
鬼殺隊とは、文字通り、鬼を狩る集団である。そのため、別名"鬼狩り"とも呼ばれている。
規模はそれほど大きくないが、男女年齢問わず生まれも境遇も様々な者が所属しており、その多くは陽が陰りを帯びてくる時間帯から活動し出す。
政府非公認の組織故、長い歴史があるのにもかかわらず、隊の存在は世間にはあまり認知されていない、等。
簡潔にこれらを語る匡近からは、たびたび、実弥の怪我の状態を気にかけるような視線を感じた。煩わしいところもあるが、些細な眼差しや物言いに、いちいち温もりを感じざるを得ない男だった。