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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第26章 番外編 ② 或る風の息吹の



 新しい巻軸帯を仕入れる金はあっただろうか。
 このところ実入りがなく、所持金もそろそろ底をつく頃だ。

 ぎゅ···と、残りわずかな巻軸帯を握りしめる。

 そんな実弥の頭上から、「ほら、これ使えよ」と穏やかな声が注がれた。

 差し出された手の中には新品の巻軸帯があり、意外にも綺麗とは言えない指から辿るように見上げた先の男は優しい顔で微笑んでいた。

 背後に広がる薄明の空。そう遠くない夜明けを思い、知らず知らずに双眸がまた男の持つ巻軸帯に引き寄せられる。

 夜が明けたらここから動き出すとして、しかし付近に診療所とおぼしき建物はなかったと記憶している。いや、例え見つけだせたとしても、治療代を払えるどうかわからない。



「···お前が噂の鬼狩りだったんだな」



 深く息を吐くような声でそう言うと、「よいしょ」と続け、男は実弥の傍らに腰を下ろした。



「どういうわけか日輪刀も持たない子供が鬼を殺して回っているらしいってさ、俺たち鬼殺隊内部では有名な話だったんだ」

「きさつたい···? 警官じゃァねェのかァ」

「え? 警官? うはは、違う違う。あ、そうか、それでお前あんな逃げるように急いで行っちまおうとしたのか」

「···テメェが邪魔くせェことには変わりねェよ」

「まあまあ、これも何かの縁と思って、改めて俺の話を聞いてくれないか」



 男は実弥の手を掴み、掌の上にぽんと巻軸帯を預けた。



「オイ、俺ァ別に」

「ん? 自分じゃ手当てできないか? なら俺が巻いてやるぞ?」

「···っ"」



 至近距離からの満面の笑みに妙な圧を感じ、こいつにはこれ以上何を言っても無駄だと悟る。不本意ではあるものの、巻軸帯に関してはまさに闇夜の灯火だ。

 実弥は小さな舌打ちをして、真新しい巻軸帯を渋々とほどきはじめた。



「自己紹介が遅れたな。俺は粂野。粂野匡近。鬼殺隊で鬼狩りをしている剣士だ」



 "きさつたい"

 "おにがり"

 "けんし"


 聞きなれない言葉が並び、実弥は頭の中で言われた単語を反復する。




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