第26章 番外編 ② 或る風の息吹の
男の身なりだ。
軍服にも似た服装をしているため、警官、もしくはその類いの組織の人間であると思った。
見た目は若いがそう見えるだけかもしれないし、いかにも生真面目そうな面構えをしている。家もなく、毎夜ひとりで鬼を狩っている子供と知れたら面倒な場所に連れていかれないとも限らない。
実弥は男が話しかけてくるのをことごとく無視し続けたが、けっきょく、とある民家の前に辿り着いても男は実弥に引っついてきた。
「ここお前の家か? なんだ、周辺はやけに瓦礫なんかが散乱してるな」
「······違ェ。奥の屋敷は空き家だ」
はあ、とため息をひとつ吐き、しかたなしに短く答える。鬼と揉み合い疲弊しているこの状況で、しつこく付いて回り喋り続ける男を拒む気力ももう底をついていた。
この辺りに鬼が出るとの噂を聞きつけ、裏の空き家を拠点として連日鬼を探し回っていた実弥。今宵ようやく出くわすことの叶ったつぎはぎの鬼こそが、実弥の追っていた鬼だったのだ。
「······あの鬼の仕業だな」
崩れ落ちた瓦礫の前に腰をかがめ、男はとたん厳しい顔つきになり呟いた。
「俺はここしばらくの間先刻の鬼を追っていたんだ。もっと早く見つけ出せていればと思うと悔やまれるよ。お前にもそんな怪我を負わせずに済んだだろうに」
「別にテメェが早く来ようが遅く来ようが知ったこっちゃねェよ。鬼共は俺が皆殺しにしてやる」
男が双眸を丸くする。
どこか奇妙なものでも見るような眼差しを感じても、実弥は構わず屋敷の外壁を背にその場に座り込んだ。
この男に助けられたことは事実だが、頭を下げられる覚えはない。鬼と対峙したのは己の意思だからだ。不運に見舞われた遭遇とはわけが違う。
実弥は所持品から救急小包を取り出すと、さきほどから手拭いで圧迫してた裂傷部位に明礬末の原末を散布した。
巻軸帯を手にしたとき、それが思いのほか少ないことに気づく。
これでは傷口すべてを覆うことができない。
腕以外にも多数怪我をしているため、目に見えて足りない。