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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第26章 番外編 ② 或る風の息吹の



「···!?」



 まだ朝日の昇る時間でもないのに、まるで陽光で焼かれた時と同じように、鬼の体躯が散り散りになって消えてゆく瞬間を見た。



 ( どういうことだァ··· )



 怪訝な顔で詰襟の男を振り返る。すると、



「あ!!」



 男は泡を食ったように大声を上げ、血まみれの実弥の手を躊躇いもなく掴みにきた。



「ひどい怪我じゃないか! 鬼にやられたんだな!?」



 あまりの勢いに圧倒されて、心持ち腰が反る。

 「これは一旦止血しないとまずいな···」「すぐに縫い合わせないと···」そう深刻な表情でぶつぶつと呟く男の手も実弥の血で真っ赤に染まる。しかし男は特に気にする素振りも見せず、もう片方の手で衣嚢から素早く手拭いを取り出した。

 まっさらな手拭い。
 なにをされるのか察した実弥は無言で腕を払いのけ、ぷいっと男に背を向けた。

 足もとに転がる手具足を片手で抱え、畦道の向こうに見える人里を目指し歩き出す。

 実弥の戦闘に流血は付きものだ。
 危険と隣り合わせのこの狩りに、無傷で済んだ夜はない。故に、消毒綿・巻軸帯・硼酸末 (ほうさんまつ)・明礬末 (みょうばんまつ) の入った救急小包も所持している。
 自分で傷口を縫い合わせたこともあれば、焼いたこともある。人の手を借りるつもりはない。下手な情けはかけられたくない。



「どこへ行くんだ? そっちにお前の家があるのか?」



 背に届く声も無視してすたすた。構わず離れてゆく実弥の後を、おーい、待ってくれよ! と言いながら追いかけてくる男が鬱陶しくて、実弥はひたいに青筋を浮かべた。



「···うるせェ、ついてくんじゃねェ」

「だってお前、その怪我は医者にちゃんと見てもらったほうがいいぞ? それに顔色も良くないじゃないか」

「テメェにゃ関係ねェんだよ」



 横合いからひょいと覗き込んでくる男の顔が視界に入り、実弥はより眉間に苛立ちをあらわにした。

 一方で、一刻も早く男から離れたいと思ったのには、もうひとつの理由がある。



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